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大空と錬金術師
ダメ人間

エドとアルがマルコーの研究書を得てから一週間がたった。

この一週間ツナと獄寺は懸命に山本の手がかりを探すものの、影すら掴めないままだった。人脈も土地勘もない地で友を探すことはとても容易な事ではなく、焦りや不安に精神的な疲労ばかりが積み重なっていく。

「あの野球バカ、どんだけ10代目に心配かければ気が済むんだ……」

図書館への道のりの中、獄寺が苛立った声で吐き捨てる。獄寺の言葉に対しフォローを入れる気力すらツナには残っていなかった。

図書館の一室の扉を開けば、そこにはツナたち同様疲弊しきった顔のエドとアルがいた。

「何なんだこのクソ難解な暗号は……」

一週間前の余裕はどこへやら、頭を机に突っ伏したままエドワードが呻き声を上げる。そんな様子にツナは「こっちも大変そうだね」と呟いた。

「そっちはヤマモト? の手がかりは見つかったのか?」

「全然ダメ。ここまでやってダメなら、やっぱり山本は中央には来てないんだと思う」

2人で報告し合い、そしてお互い深いため息を吐く。

「お互い上手くいかねーなー」

机に突っ伏し、ぐりぐりと額を押し付けるエドに獄寺が片眉を上げた。

「んなもん、書いた張本人に聞きゃはえーじゃねーか」

居場所知ってんだろ?と言う獄寺に、しかしエドは首を振った。

「いや!これは『これしきのものが解けない者に賢者の石の真実を知る資格なし』というマルコーさんの挑戦と見た!何としてでも自力で解く!」

そう言って再びガリガリと紙にペンを走らせるエドに「そーかよ」と獄寺は冷めた目線を送った。対象的にツナは尊敬のまなざしを送る。

「俺達も諦めず、もうちょっと手がかり探そっか」

そう言ってツナが会議室のドアに向かうのと、ドアが開くのはほとんど同時だった。油断していたツナは派手な音を立ててドアに顔面を強打する。

「10代目!!!」

「え?うわあああああ、ツナ君ごめん!!」

ドアを開けたのはブロッシュだった。そうだと分かった途端に獄寺は猛犬よろしくブロッシュに掴みかかる。

「おいてめぇ10代目に何てことしやがる!!」

「待って待って、獄寺君!俺は大丈夫だから!!」

今にもポケットの中の獲物に手を出す勢いの獄寺に、痛みをこらえて復活したツナが仲裁に入る。そんな3人の様子を後から入ってきたロスは呆れたように見やった。

「エドワード君、アルフォンス君、お客様が来ているわ」

兄弟が顔を上げると、ドアの陰から一人の女性が恐る恐る顔をのぞかせた。

「「シェシカ!」」

「お2人ともここにいらっしゃると聞いたもので……」

シェシカの存在に、未だごたごたとやっていたツナたちも動きを止めてそちらを見る。大勢の視線に少し居づらそうに背中を丸めながら、それでもシェシカはエドとアルの前まで来ると深くお辞儀をした。

「エドワードさんのおかげで母を立派な病院へ移すことができました! 本当に何てお礼を言ったらよいのか……というか、あんなに沢山いただいてしまってよかったのかしら?」

そう言って恐縮とするシェシカにエドは軽く笑って「いいっていいって」と手を振った。

「気にしないでいいよ。この資料の価値を考えたらあれでも安いくらいだし」

それでも申し訳なさげに眉を下げるシェシカに、アルが賢者の石の事を伏せつつも、この料理研究書は貴重な錬金術時研究の暗号であることを軽く説明した。説明を聞き、やっと高額の報酬に納得ができたのか、シェシカの緊張した雰囲気が少しだけ和らいだ。

「……で、解読の方は進みました?」

シェシカの悪気のない質問に、兄弟はどんよりとした空気で答えを返す。明らかにまずい質問をした、とシェシカの額に汗が浮かぶ。

「君は仕事、見つかった?」

お茶を濁すためのアルフォンスからの質問に、今度はシェシカがどんよりとした空気で回答した。

(ただでさえ暗かった部屋の空気が更に淀んでいく……!)

目的を果たせない者が集まり、お互いの傷口をえぐる悲惨な現状にツナは顔を引き攣らせる。

「じゃあ私そろそろ……本当にありがとうございました」

立ち去る前に、と重ねて礼を言うシェシカにエドは「金の事はもういいって」と苦笑する。しかしシェシカは笑って首を振った。

「いえ、お金の事もそうですけど……本にのめり込む事しかできないダメ人間の私が人の役に立てたのが嬉しかったんです。ありがとう」

そう言ってシェスカは微笑む。そんなシェスカにアルは首を振った。

「ダメ人間じゃないよ。何かに一生懸命になれるってことはそれ自体が才能だと思うし、それにすごい記憶力もあるし自信持って良いよ」

その隣でツナも大きく頷く。

「俺、運動も勉強も苦手で、好きなものとか夢中になれる物なんて何も持ってなかったんです。だからシェスカさんみたいに、他に何も見えなくなっちゃうくらいに夢中になれる物があるって羨ましいです。上手く言えないんですけど、自分をダメ人間だとか言って、そういうのを無駄にしないで欲しい、です」

そんな二人に少し目を見開いてからシェスカは嬉しそうに目を細めた。

「ありがとう!」



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