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大空と錬金術師
暗号
エドは国立図書館に着くと、会議室を一室借りる。誰も入ってこれないように会議室のドアを閉めると、机の上に紙束を広げた。

「『錬金術師よ大衆のためにあれ』……って言葉があるように錬金術師は術がもたらす成果を一般の人々に分け隔てなく与えることをモットーにしている」

まあ国家錬金術師はそのモットーに反しているから『軍の狗』って呼ばれてんだけどさ、とエドは他人事のように肩をすくめる。

「けどその一方で一般人にそのノウハウが与えられてしまう事を防がなくてはならないんだ」

その言葉にツナは首を傾げる。しかし獄寺とブロッシュは理解したようでなるほどと頷いた。

「無造作に技術をばらまいて悪用されては困りますね」

ブロッシュが言った言葉にツナもやっと納得した。要はマフィアの『オルメタ』のようなものか、と理解する。ただしオルメタは裏の世界の力が表の世界に干渉することを禁止する事で裏の世界のもろもろの秘密が表沙汰になることを防ぐための掟であり、今回は全くの逆の意味を持つのだが、最近マフィアが悪だという感覚がマヒしてきているツナはそのことには気づいていなかった。

ツナがマフィアと錬金術師を比較する一方で、エドはツナたちの前に一束の献立書を掲げた。

「で、俺達がどうやって技術の漏洩を防ぐかっていうと、『錬金研究書の暗号化』だ。一般人にはただの料理研究書に見えても……その中身は書いた本人にしか判らない様々な寓意や比喩表現で書き連ねられた高度な錬金術所ってわけさ!」

ツナはエドの説明に「おおおおお!」と感心の声を上げる。しかしすぐに首を傾げた。

「書いた本人にしか判らないって……そんなのどうやって解読すれば……?」

「知識とひらめきとあとはひたすら根気の作業だな」

予想以上に気の遠くなる話に、ツナとブロッシュは苦い顔をする。そんな二人にアルは少し笑いながらフォローを入れた。

「でも料理研究書に似せてる文まだ解読しやすいと思いますよ。錬金術って言うのは台所から発生したって言う人もいるくらいですしね。兄さんの研究手帳なんて旅行記風に書いてあるから僕が読んでもさっぱりで」

「エドも暗号で書いてるんだ」

エドってやっぱり頭にいい人なんだなあとしみじみ思う。正直自分には暗号を書くことも読むこともできそうにはなかった。当のエドはアルの言葉に「俺の暗号そんなに難しいか?」などと首を傾げている。

「ちなみに俺の手帳には修行記録やマフィア日誌が俺の開発した『G文字』という暗号で書かれてます!!」

「そう言えばこの人も暗号開発してた!!」

未来でちらっと見た爆弾と髑髏の暗号G文字を思い出す。エドの暗号の話にはただただ頭の良さに感心するだけだったが、獄寺のそれは頭脳の無駄遣いなきもした。

その前にそもそも修行記録はともかくマフィア日誌って何!!?と思わなくもなかったが、聞くのも少し怖かったので言葉をそっと胸にしまった。

「さて!!さくさく解読して真実とやらを拝ませてもらおうか!!」

エドはやる気満々の顔でそう言うと、机の椅子に腰かけ、研究書を読み始めた。アルもまた、試料を取りに会議室を出る。

(『真実』……)

エドの言葉に、マルコーの顔がツナの脳裏によぎる。何かに絶望したような、諦めてしまったような、それでも割り切ることのできないような、不安や恐怖や色々なものを混ぜ合わせたかのようなあの表情。それでもマルコーはエドに研究資料を託してくれたのだが、やはりツナの中にはあの時の『悪い予感』が残っていた。

「俺もアイツらの事手伝った方が良いですか?」

かなり不本意そうに顔をしかめながら、しかし優しいツナの性格を汲んだ獄寺が小さく尋ねる。その言葉にツナは逡巡し、少し顔を歪めた。そして一瞬の沈黙の後、ゆるゆると首を振る。

「エドは錬金術の専門家だし、俺達じゃ足手まといになっちゃうよ。それより、俺達は俺達で、山本の事を探さなきゃ」

獄寺は一瞬、意外そうに眉を上げた。しかしすぐに頷くと、「今度は憲兵ではなく一般市民の方を当たってみましょう」と提案した。



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