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小説(ファンタジー)
6
「セルジオ様?」
「言い訳になるかもしれないが、このまま話を聞いてほしい」
 懇願するように囁くセルジオにリゼルは小さく頷いた。
 聞かなければきっと前には進めないような、そんな気がしたから。
「…お前が知っているように、俺はクリスを好いていた。いずれは結婚をしたいと思っていた。だが、クリスにはすでに婚約している相手がいた。クリスはずっとチャクタ伯と付き合っていた。俺は、クリス以外は誰と結婚しても同じだと思っていた。…自棄になってたんだ。――――でも、そこでお前と出会った」
 セルジオはさらにきつくリゼルを抱きしめる。
 セルジオの鼓動が聞こえてきそうだ。
「最初は、お前をクリスと重ねていた。だけど、いつの間にかリゼル、お前に惹かれていった。愛してるんだ、リゼル。クリスよりも、お前のことを。失うことなんか考えたくない」
 リゼルの腕が上がる。セルジオは、何かを決意したかのように、きつく目を閉じた。だが、予想した衝撃はやってこなかった。その代わりに、温もりが頬に触れた。
「リゼル?」
「―――本当に?」
 濡れた瞳がセルジオを捕らえる。
 セルジオは、その手に自らの手を重ね、離すまいと握りしめた。
「本当だ。…調子が良いことはわかってる。でも、愛しているんだ。頼むから、離縁するなんて言わないでくれ。どうか、俺の隣にいてくれ」
 セルジオの言葉にリゼルの両目から堪えていた涙が流れ出した。
「やはり、こんな俺はもう嫌か?」
 違うと答えたくても上手く声が出なくて、必死に首を横に振る。
「…でも、この前クリス様と――――」
 ずっと心の奥に秘めていたあの日のことを口にする。
「あれは、チャクタ伯と喧嘩をして落ち込んでいるクリスを慰めていたんだ。そうか、あれを見ていたのか」
「………はい」
「不安に、させたな。すまない」
 セルジオは優しくその涙を指で拭う。
「もう二度とクリスと2人きりで逢ったりしない。許してくれるか?」
「こんな僕が側にいていいですか?綺麗でもないし、クリス様みたいに器量良しでもありません」
「リゼルがいいんだ。リゼルに、妻で逢った欲しい」
 真っ直ぐにリゼルを見つめた。リゼルは自らセルジオに抱きついた。
 それがリゼルができる精一杯の答えだった。



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