小説(ファンタジー)
5
屋敷に戻ると、真っ直ぐにリゼルの部屋に向かった。
「リゼル!!頼む、話をさせてくれ!」
扉越しにリゼルに届くよう声を上げる。
しばらくして、顔色の優れないリゼルが現れ、覇気のない声でセルジオを招き入れた。
ゆったりとした動作でリゼルはお茶を用意する。セルジオは黙ったまま機会を窺う。
リゼルがセルジオの向かいに座り息を吐く。
「…お話とは、なんでしょうか?」
リゼルが問いかける。だが、セルジオは口を開くが、すぐに閉ざした。
「もし、よろしければ僕の話から聞いていただけませんか?」
リゼルの問いにセルジオは尚も黙ったままだ。
「…………離縁を、お願いします」
思いつめたように固い声音でリゼルが告げた。
下げられたリゼルの頭をセルジオは顔を歪めて見つめていた。
「なぜ…だ」
やっとのこと絞り出した声は少し震えてしまっている。
リゼルは真っ直ぐにセルジオを見つめる。
「僕には、クリス様の代わりでいることはこれ以上できません。不甲斐ない妻で申し訳ありません。でも、もう無理です。耐えられません。どうか、離縁して下さい」
深々と頭を下げる。
セルジオは、最悪の予想が事実になってしまったことに言葉を失った。
言い訳すら思い浮かばない。
だが、体が勝手に動き出した。
立ち上がり、座ったままのリゼルを抱きしめた。
一瞬、リゼルは何が起こったのかわからなかった。
気づいた瞬間にリゼルは抜け出そうと暴れ出した。
「離して下さい!!」
「すまない。リゼル、すまない」
何度も何度も謝罪の言葉を繰り返す。
いつものセルジオとはかけ離れた弱々しい様子にリゼルは戸惑う。
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