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小説(ファンタジー)
4
 セルジオは執務室で大きな溜め息をついた。
「おい、セルジオ。俺の前で辛気臭い溜め息をつくな」
 セルジオの上司であり、王太子でもあるリュークが呆れ半分で告げる。
「…仕方ないだろう。リゼルともう1週間も顔を合わせていないんだ」
 あの急な来客でリゼルとの約束を破ってしまってから、リゼルはセルジオを避けていた。見送りや出迎えもそうだが、食事さえも一緒にとってくれない。さすがのセルジオも結婚後はこんなに離れていることはなかったから気落ちしてしまう。
「新婚だろ。奥様をもう怒らせたのか」
「そんなことはしていない。理由がわからないから困っているんだ」
 情けなく肩を落とす親友にリュークは驚きを隠せなかった。
 いつだってこの男は自信で溢れていて、弱みさえなかなか見せない。だというのに、たったひとりの少年に振り回されているのだ。
「……まぁ、いつかは愛想を尽かされるとは思っていたがな」
 あまりに早すぎる。と告げたリュークの言葉にセルジオはバッと顔を上げた。
「どういうことだ」
 まさか、リゼルには他に好いた者でもいたのか、と思ったセルジオの考えとは真逆の言葉をリュークは吐いた。
「だって、お前奥方のことクリスの代わりとか思っていただろう?そんな男に騙され続けるような方には見えなかったし、お前から聞かされ続けた惚気話から察するに、奥方は結婚当初から気づいていたと思うぞ」
 リュークの発言にセルジオの顔が青ざめていく。
(知られていた?…いや、でもいつもあんなに笑っていたじゃないか)
 リュークの言葉を否定しようと何度も頭の中を色々な考えを行き来する。
 記憶の中のリゼルはいつだって穏やかに笑っている。
 どんなに考えても気づかれていたようには思えない。
 でも、確かにリゼルには控えめすぎるところや他人行儀な所があるように感じる。でも、それはまだ自分に慣れてけれていないだけだと思っていたが、もし、仮に気づいていたとしたなら―――――。
「リューク!今日はもう帰らせてもらう!!」
「は?!おい!!」
 引きとめるリュークの声を無視し、セルジオは慌てて帰路を目指した。
 のんびりしている時間など今はない。



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