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小説(ファンタジー)
3
 その日、本来なら休みであるセルジオと共に過ごす約束であったのだが、セルジオに急な来客があった為、リゼルはひとり庭の散策をしていた。
 庭の中で特に気に入っているのは少し奥詰まった場所にある薔薇園だった。リゼルはひとりそこに向かっていた。しかし、近づくにつれて誰かの話声が耳に届いた。
 リゼルがその姿を見てしまったのは、正しく不運としか言いようがなかった。
 抱き合うふたりの男性の姿。
 抱きしめる男の方はリゼルの夫であるはずのセルジオ。そして、抱きしめられている男の方は、セルジオの想い人、チャクタ伯爵夫人であるクリスだった。
 急な来客とは、クリスのことだったのだ。
 それならば、自分よりも優先されるのも、この場でふたりが密会していることも納得がいった。ここは屋敷の者も滅多に来ない場所だ。只一人リゼルを除いて。
 リゼルはそっとその場を後にし、来た道を戻りだす。
 部屋に着くと、様子のおかしいリゼルを心配げに侍女たちが窺ってくる。
「ごめんなさい。少し気分が悪いからひとりにさせて」
 侍女たちを下がらせ、やっと涙を流すことを許された。
(やっぱり、僕ではダメだった…)
 身代わりであることすら、リゼルには出来なかった。
 ふたりの様子を思い出し、互いに想い合っていることを知ってしまった。リゼルは、身代わりではなく隠れ蓑でしか過ぎなかった。何て自分はおこがましいのだろう。
 クリスを抱きしめていたセルジオを思い出しながら、心が大きな音を立てて砕けたような気がした。


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