小説(ファンタジー)
2
出迎えの為に玄関ホールにいたリゼルに、帰って来たセルジオは彼の体を抱き寄せた。
周りからは温かい視線がふたりに送られる。でも、リゼルだけがぎこちなくその腕の中で微笑んでいた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「リゼル、何度も言っただろう。私のことはセルジオと呼んでくれ」
「…はい、セルジオ様」
「ありがとう、リゼル。あぁ、そうだ。今日はお前に贈り物があるんだ」
セルジオから渡されたのは1冊の本だった。
「前から読みたいと言っていただろう。王都の本屋で偶々見つけたんだ」
「ありがとうございます、セルジオ様」
リゼルは本を抱きしめる。自然と笑みが広がった。
読みたかった本が手に入ったこと以上に、セルジオが他愛もないリゼルの言葉を覚えていてくれていたことが嬉しかった。
「他に欲しいものがあったら遠慮なくいつでも言ってくれ。出来る限り用意しよう」
「勿体ないお言葉です」
「リゼルは欲が薄いからな。少しくらいの浪費で潰れるような我が家ではないんだぞ?」
「いいえ。これも全てセルジオ様と領民が作ってきたものです。僕が必要以上に使う訳にはいきません。それに、ここでの暮らしで僕が不自由だと感じたことは何ひとつございません」
「そうか、ならいいのだが。何かあったら言ってくれ。約束だ」
「はい。そのように」
リゼルが頷くのを確認すると。セルジオはリゼルを促しながら歩き始めた。
食堂で今日1日のことを互いに教え合い、ふたりはいつものように別々の寝室へと下がって行った。
眠りにつくリゼルの枕元には、セルジオから贈られた本が大事そうに置かれていた。
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