小説(ファンタジー)
1
王都から近い場所にある美しい外観の城。それは5代程前の公爵が自らの妻の為に建てさせたものだ。
美しい外観に合わせて内観も女性が好む色合いと装飾になっている。
そして、今現在その城は公爵の居城となっていた。
「リゼル様、そろそろ公爵様がご帰宅の頃合いです」
「はい。すぐに参ります」
リゼルは扉越しに応えると、小さな溜め息をついた。
リゼルが、この城の主であるセルジオ・フォート公爵に嫁いで半年が経った。
セルジオは優しく、いつもリゼルを大切にしてくれている。しかし、ふたりは夫婦になって未だ一度も褥を共にしたことがなかった。まだ若いリゼルを思ってのことだと周りは思っているが、リゼルだけはそうではないことを知っていた。
チャクタ伯爵夫人であるクリスのことをセルジオが好いていたことは知っていた。そして、自分がその身代りであることにも婚姻後すぐに気がついた。それからは手放しにセルジオに甘えることはどうしても出来なかった。与えられる全てがクリスのものだと感じてしまって仕方がなかった。
ギクシャクとした空気に慣れることがなく半年の月日が過ぎてしまった。でも、離縁を望むことも出来ない自分の弱さと浅ましさに心は段々と麻痺していくようだった。
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