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小説(ファンタジー)
4
 その日の夜、僕は眠りにつくことができなかった。
―トンットンッ
 控えめなノック音が寝室に響く。
「誰ですか?」
「…ノエル殿下、私です。夜分遅く申し訳ありません。今、大丈夫でしょうか?」
 僕は、その声に胸が高鳴るのを感じた。
「は、はい。どうぞ」
 僕がそう告げると、ゆっくりと扉が開かれた。
「…ノエル様」
 いつもよりもどこか元気のない様子の彼がそこにいた。
 僕が10年間、恋焦がれて仕方がなかった彼が。
「どうされたんですか、ジークフリート様」
 もしかして、兄様に何かがあったのだろうか。
 彼は僕の近くまで来ると膝を折って僕の手を取った。
 僕は、何が起こったのか分からなかった。
 だって、彼がそんな行動を取るなんて思いもしない。
 だって、これでは、彼が僕に対して懇願しているようではないか。そんなことはないし。彼にはそうする理由さえないのに。
「あの…ジークフリート様?」
 僕は、彼が触れる自分の手を離そうとするのだけれど、逆に彼はギュッとそれを握りしめてしまった。
「…不躾なことは分かっております。こんな夜更けに、殿下の寝室に訪ねるなど罰せられても仕方ないと思っております。ですが、私は殿下にお聞きしたいことが…お聞きしなければならないことがあるのです」
 彼はまっすぐに僕を見つめてきた。
 彼に見つめられるだけで顔と体が熱くなる。
 僕は、彼に赤くなる顔を見られたくなくて、少しだけ顔を伏せた。
「…なんでしょう」
 思ったよりもそっけない口調になってしまった。
「…失礼ながら…ノエル様がお慕いしている方をお教え願いたいのです」
「?!」
 なんで、彼がそのことを知っているの?
 兄様が言ったのかな?
 でも、何故、何のために?
「…それを聞いて、ジークフリート様にどのような益がありましょう」
 僕は疑問を押し込めてそう告げた。
 それに、彼の質問には答えることはできない。


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