企画・記念
8
次の日、目を覚ました鈴は時計の時間を見て慌てた。
「治樹様を起こす時間!!」
鈴はベットから抜け出そうとしたが、急に脱力したかのように動きを止めた。
「…そっか、もう、行けないんだった…」
鈴はそのままベットに倒れこむ。
昨日、部屋に戻った記憶がないから、きっと涙が運んでくれたんだろうと鈴は思った。
鈴は不意に傷だらけの自分の手を見つめた。
この一つ一つが全て治樹の為にできたもの。
それさえも今では自分を支えてはくれない。
昨日、枯れるまで泣いたというのにまた涙が流れだす。
どんなに泣いたって時間が戻ることなど消してないのに。
目を覚ました時、治樹は違和感を覚えた。
時計の針はもうすでに正午を指している。
完全に遅刻だ。しかし、治樹が慌てることはない。
部屋を見渡しても変わったところはない。
でも、何かが足りない、そんな感じがする。
「…リン」
治樹は鈴を呼ぶ。しかし返事はない。
おかしい。
治樹が呼べは鈴はいつだって「どうしました?」と言って顔を覗かせてくるのに。
それに、鈴が起こしに来なかった日なんて一度だってなかった。
「リン」
さっきよりもはっきりと鈴を呼ぶ。でも答えはない。
治樹は起き上がり、寝室を出る。
そこに鈴の姿はなかった。
「…どうし、て」
治樹は、空虚さに襲われた。
大好きなココアの匂いさえしないリビングにいるのも嫌で、その場から離れたくなった治樹は学園へと向かった。きっと、明日にはいつも通りだと信じて。
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