企画・記念 11 「南、最近ちゃんと飯食ってるか?」 智樹が心配そうに顔を覗き込んでくる。 「…まあまあかな」 南は誤魔化すように曖昧に答える。 だが、智樹は納得した様子ではなかった。 「なんか、あいつの浮気が酷かった時よりも元気ないな。何かあったのか」 「……何もないよ」 南は微笑んだ。だけど、その笑みはあまりにも弱々しく、痛々しい。 「南、ちょっと来い」 智樹は南を教室から連れ出す。 「智樹、授業始まる」 「いいから来い」 智樹は有無を言わさず南の手を引き階段を上っていく。 ふたりが着いたのは屋上だった。 「なあ、何を悩んでるんだ?」 「…何でもないよ」 「何でもないわけあるか、馬鹿」 智樹は軽く南の頭を小突く。 「…俺さ、あいつが浮気を辞めた時正直ほっとした。お前を大事にしてくれるようになったんだって。だけどさ、お前、全然幸せそうじゃないよ。自分がどんな顔してるかわかってるか?お前凄い苦しそうなんだ。なあ、何がお前を追いこんでるんだ」 智樹が南に問いかける。 「…ねえ、智樹」 「なんだ」 「僕、最近おかしいんだ。皓一が好きだったはずなのに、ふとした瞬間に思い出すのは別の人なんだ」 買い物に行ってる時も、一緒に食事をしている時も、ああ、あの人が好きそうだな。あの人にはこういうのが似合いそうだな。 そんな考えが南の頭の中で思い浮かぶ。 「それって、その人が好きだってことなんじゃないのか」 智樹は真っ直ぐにそう答えた。 「…そっか…」 押さえつけていたものが失ったように南の目から涙が溢れだす。 嗚咽を漏らしながら泣く南を智樹はそっと抱き寄せた。 南はその優しさに感謝した。 それ以上何も聞かずにいてくれる智樹にただ甘えた。 校舎の影からその様子を見ている存在には気づかずに………。 [*前へ][次へ#] [戻る] |