企画・記念 8 「言えないようなやつなのかよ」 「そんなんじゃない」 「なら、誰だよ」 「…友達、だよ」 「ふーん。それって俺の知ってるやつ?」 南はその言葉に小さく首を振った。 それに皓一の機嫌がまた悪くなる。 「そいつのメール、見せろよ」 「…なんで?」 不安そうに皓一を見上げる。 「別にただの友達なんだろ。やましいことないならいいだろ。ほら、出せよ」 皓一が手を伸ばしてくる。 南は何度も首を横に振る。 手は、ギュッとケータイを握りしめる。 頑なな南の態度に皓一は段々と苛立ちを募らせる。 その時、運が悪いことに南のケータイが震えた。 南は反射的にケータイを握りしめる力を緩めてしまった。 皓一は、それを見逃さなかった。 南の手からケータイを奪い取ると、先程届いたばかりのメールを開く。 それは、斎からのメールだった。 『今仕事が終わったよ。 今日は新作ブランドの仕事だったんだけど、南くんに似合いそうな服があったから買っちゃった。 今度会える時に渡してもいいかな? 空いている日があったら教えてください。 じゃあ、またメールします。 斎 』 「…なんだよ、これ…」 皓一の表情が険しさを増す。 南はどんなメールかはわからなかったが、それが斎からのものであることは想像ができた。 「南。誰だよ、これ」 皓一がケータイの画面を南に向ける。 「…智樹のお兄さんだよ。この前智樹の家に言った時に知り合って友達になったんだ」 「ただの友達の兄貴が、なんでお前と友達になるんだよ。それに、お前に服を買ってやるとか、どう考えてもおかしいだろ」 「それは……」 まさか、告白されたなどとはこの状況では口にできない。 だが、このままでは皓一は南が浮気していると勘違いしてしまう。もしかしたらもうそう思っているのかもしれない。自分のことは棚に上げて…。 「こいつと、何回あったんだ」 「…2回だけだよ。初めての時と、街で偶々逢ったんだ」 「…本当か?」 皓一の問いにしっかりと首を縦に振る。 南のその様子に皓一はしばらく黙ったまま何かを考えるような仕草をした。 そして、しばらくすると重い口を開いた。 「…わかった、信じてやる。でも、今後一切こいつとメールするな。逢うのもダメだ」 皓一の言葉に南は目を見開く。 見つめた先の皓一の目には、疑心と嫉妬が入り混じっていた。 「わかったな」 皓一は念を押すように南に言葉を投げる。 南は、頷くしかなかった。そして、南が頷くのを確認した皓一は無言のまま南を抱きしめた。 だが、そこに喜びや嬉しさなどはなかった。 南は、その時感じた感情に戸惑いを覚えた。 (…どうして、斎さんの顔が浮かんでくるんだろ…) [*前へ][次へ#] [戻る] |