企画・記念
2
放課後、僕は買い物に行ってから恵方巻きの準備を始めた。
結局オーソドックスな太巻きにすることにした。
でもちょっと違うのは、太巻きに胡桃を入れること。
昔食べたんだけど美味しかったんだよね。
「あ、そう言えば鬼役どうしよう」
僕がやってもいいけど、紫苑様豆投げてくれるかな?
まあ、別に絶対鬼がいなきゃいけないわけでもないし。
少しでも紫苑様が楽しんでくれればいいか。
「ただいま、芳」
「おかえりなさい、紫苑様」
玄関で紫苑様を出迎える。
すると、ギュッと抱きしめてキスをしてきてくれた。
「用意できてます。早速なさいますか?」
紫苑様を見上げながら問いかける。
「ああ」
「じゃあ、リビングへ行きましょう。豆、用意しましたから」
リビングに入ると、紫苑様に升に入った豆を手渡す。
「これを本当なら外に向かって投げるんですけど、片づけが難しいので部屋の中で投げましょう」
「ああ、わかった。これをどうすればいい」
「少しだけつまんで『鬼は外。福は内』って言いながら投げてください」
「「鬼は外。福は内」」
ふたりで玄関と窓に向かって投げる。
紫苑様は少し恥ずかしそうだ。
何度かそれを繰り返したら升の中がなくなった。
紫苑様も同じようだ。
「じゃあ、片づけするので少し待っていてください」
箒と塵取りで投げた豆を集めて捨てる。
本当は食べ物を無駄にはしたくないんだけど、床に落ちたものだし節分の豆は仕方ないよね。
新しい豆を用意して紫苑様の前に置く。
「節分の豆は年の数だけ食べるんですよ」
「そうなのか」
「はい」
紫苑様が一粒ずつ口に運ぶ。
僕も一緒に食べ始める。
「味がないんだな」
「まあ、ただの豆ですから」
「でも、これはこれでいいものだな」
「夕食には恵方巻きも用意しましたので、一緒に食べましょう。今年は東北東やや右らしいですよ」
商売繁盛や無病息災を祈って食べるものなんだけど、僕は、紫苑様とこれからも一緒にいることを祈りたいと思う。
来年も、再来年も、ずっと、傍に居られるように。
END
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