企画・記念
3
『面会時間終了のお時間となります。面会者の方は、御帰宅の御準備をお願いします』
アナウンスが流れる。
智は握っていた手を離す。
「…また明日来るね。明日はケーキも持ってくるから」
智はそう告げると、枕元のテーブルにリングの入った箱を置き、豊の額にキスを落すと病室を後にした。
外に出ると気温はかなり下がっていた。
空は厚い雲が覆っており、いつでも雪が降ってきそうだ。
だが、それと比例して、街はイルミネーションで輝いていた。
智は豊のいないひとりの家に帰りたくなくてわざとゆっくり、遠回りしながら歩く。
さすがに平日だからか、人はそこまで多くはないが、恋人同士だろう人々と多くすれ違う。
その表情がとても幸せそうで少し羨ましかった。
まだ、家に帰りたくなくて、家の近くの公園のベンチに腰を掛ける。
寒いはずなのに、その感覚さえ麻痺してしまいそうだ。
(そういえば、豊と初めてキスをしたのはここだったな…)
まだ、一緒に暮らしていなかった頃、付き合ってまだ間もない時だった。
誰かに見られたらとハラハラして、でも、付き合って初めてのキスが嬉しかったのも覚えている。
それから少しして一緒に暮らしだした。
最初は生活リズムのすれ違いなんかもあったが一緒にいられることが何よりも嬉しかった。
互いの両親にも挨拶をして、色々あったが認めてもらった。
このまま、ずっと一緒に居られると無条件にそう思っていた。
再び気分が沈んだとき、空から白いものがゆらゆらと落ちてきた。
「…雪…」
本当に降って来た。
でも、この振り方では積もらずに明日には消えてしまっているだろう。
積もれば小さな雪だるまを作って豊に見せてあげられるのに、と考える。
その時、ポケットに入れていたケータイが震えだした。
着信を見ると病院からだった。
(豊に何か?!)
不安と焦りを感じたまま智は通話ボタンを押す。
「…はい」
「至急、病院に来てください。佐竹さんが………」
智が病室に飛び込んだ時、そこには豊の両親もいた。
豊の母は泣き、父も目に涙を浮かべている。
智は踏みしめるように豊が眠るベッドに近づいた。
「…さ、とる……」
3ヶ月ぶりに、聞いた愛おし恋人の声に涙が溢れだした。
智は我慢できずに、横たわったままの豊に抱きついた。
そして、子供のように声を上げて泣いた。
そんな智の頭をぎこちない手つきで豊が撫でてくれる。その手には、サイズの合わないリングが嵌められていた。
豊は、智が泣きやむまでずっとそうしていてくれた。
智は泣きながら、叶えられた願いに心の中で何度も感謝の言葉を唱えた。
それは確かに叶えられた最高のクリスマスの贈物だった。
END
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