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企画・記念
1
 あの日よりも寒くなった気温を肌に感じながら智(サトル)は今日も通いなれた場所へと向かう。
「おはよう、豊(ユタカ)今日も外はすごく寒いよ」
 智はカーテンを開けながらベッドの上で眠る人物に声をかける。
 だが、その人物から返事が返ってくることはない。
 そこにあるのは彼が生きていることを教える機械音と酸素が送り込まれる音だけだ。
 多くの管に繋がれた彼の顔は、3か月前に比べてだいぶ痩せてきていた。
「今日はね12月24日だよ。なんかね、夜には雪が降るんだって。ホワイトクリスマスだよ。ああ、今日はイヴだからホワイトクリスマスイヴっていうのかな?」
 そんなことを話しかけながら笑う。
 でも、心から笑うことなんてできない。
 だって、どんなに話しかけても、愛しい人が目覚めてはくれないのだから。


 3か月前のあの日は、ふたりとも大学が休みで、久しぶりに一緒に出掛けていた。
 映画を見て、ゲーセンに行って、カラオケで熱唱して、楽しい1日だった。
 夕日が空を赤く染めている。
「豊、今日の夕飯何がいい?」
「肉がいい」
「じゃあ、ハンバーグにするね。あとサラダとスープも作るね」
「楽しみだ。じゃあ、スーパー寄ってから帰るか?」
「うん」
 智は頷きながら今日買う材料を考えていた。
 ふたりが交差点に差し掛かった時、不意に隣を歩いていた豊が飛び出した。
「豊?!」
 驚きのあまり声を上げる。
 目の前の信号は赤色を示している。
 智が目で追った豊の先には、小さな子供の姿とそれに迫る乗用車の姿が…。
 そう、認識した瞬間だった。
 子供を庇うように抱きしめた恋人が目の前で車に轢かれた。
「豊!!」
 智は、必死に豊の元まで駆け寄った。
 豊の腕の中で子供が泣いている声だけが頭に響く。
 道路には、赤い恋人の血が見る見ると広がっている。
「おい、誰か救急車呼べ!!」
 周りを歩いていた人が声を上げる。
 智は泣きながら必死に血が溢れ出てくる箇所を抑えた。
 それでも止まることのないそれにただ恐怖だけが智の中を支配していた。



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