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企画・記念
5
「そうなんですか。初めて聞きました」
 僕は再び中心に目を送る。
 そこではまた違うカップルがキスをしていた。
 少しだけ…本当にほんの少しだけ、羨ましかった。
 僕には、僕らにはああして堂々と恋人であることを表すことができない。
 隣を歩いたり、偶に手をつないだりはできても、誰かに見られるような場所でキスをするなんてことはできない。
 恋人であることを隠さずに行動することはできないんだ。
 いっそ、僕が女の人だったら違ったのかもしれない。
 そもそも、紫苑様の恋人が僕じゃなく、女の人だったら………。
「芳?」
 見上げると、心配そうに紫苑様がこちらを見ていた。
「なんでもありません。…あ、あっちにも何かあるみたいですよ」
 これ以上、紫苑様に気を使わせるわけにはいかない。
 別の方向に足を進めようとした僕の手を紫苑様が握った。
 そして、止める間もなく、紫苑様にさっきまで僕らが見ていた正にその場所まで連れていかれていた。
 周りには多くの人たちの目がある。
 僕が戸惑って、ここから逃げようとしていたら、紫苑様にしっかりと腰を抱かれ、引き寄せられた。
 そして、頭を押さえられ、気づけば、目の前には紫苑様の顔が…。
 その瞬間、唇に少し冷たい感触が降って来た。
 段々と、深くなっていくそれに気が遠くなりそうだった。
 しばらくして解放されたときは、顔が真っ赤だったと思う。
「…芳、俺はお前との関係を隠したりなんかしない」
 真剣な目が僕を見つめてきた。
「この関係が普通だとは思ってない。それでも、俺はこの関係を恥じたりしていない。お前の傍に、隣にいられるのは俺だけだと思っている」
「…紫苑様」
「芳、だから我慢するな。俺はお前が離れていくことが一番嫌なんだ」
「…はい」
 やっぱり、紫苑様には隠すことなんてできないんだ。僕の浅はかな考えなんて。
 その時不意に、ここが公衆の場だったことを思い出した。
 恥ずかしくなって、僕は顔を隠すように紫苑様にすり寄った。
 頭の上で紫苑様が笑ったような気配がした。
 それと同時に僕の足が地面と離れた。
「し、紫苑様?!」
 急に抱きあげられて、僕はギュッと紫苑様に掴まる。
 重さなんて感じていないかのような足取りで紫苑様が歩きだす。
 好奇な目が注がれるのを肌で感じながらも逃げることのできない僕はただできるだけ小さくなろうとしていた。
「芳、今日は連れて行きたい所がまだあるんだ。一緒に言ってくれるか?」
「…はい」
 頷くと、紫苑様の足取りが少しだけ早くなった気がした。
 僕は落ちないように………なんて言い訳をしながら、紫苑様の首にギュッと抱きついた。
 きっと、これから行く場所がどこであろうと僕は幸せしか感じないんだろう。
 だって、紫苑様がいるだけで僕にはそこは永遠の楽園よりも幸福な場所なのだから。
 紫苑様、貴方が僕の幸福そのものなんです。
 どうか、永遠に貴方と共に………。


END


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