小説(現代) 2 その日、望は恋人に呼ばれて恋人のマンションに来ていた。 合鍵を使ってドアを開けると、中からは悲鳴のような喘ぎ声が耳に響いてきた。 望は、ギュッと手を握りしめて、部屋の中へと入っていった。 中に入れば入るほど、その声は大きくなる。 リビングまで来ると、望はソファーに腰を掛けた。 一枚扉を挟んだ寝室の方からは絶えることのない声が聞こえてくる。 望は、それでも帰る訳にはいかず、耳を手で塞ぎながらソファーに沈みこんだ。 聞きたくない。 少しでも、聞こえなくしたい。 その一心だった。 しばらくすると、声が聞こえなくなった。 固く閉じていた目と耳を解放すると、ちょうど恋人が部屋から出てくるところだった。 「…涼」 望は恋人の名前を呼んだ。 「…来てたのか…。シャワー浴びてくるから、軽く食えるもの作ってろ」 涼はそうとだけ望に命じると目線を外し、背を向けた。 望は起き上がり、キッチンに向かう。 冷蔵庫を開けると、最近はあまり来ていなかったので材料があまりなかった。 買いに行く時間はない。 望はある材料から、パスタを作る ことにした。 卵とチーズはあるから涼の好きなカルボナーラにしよう。 そう決めると、望は急いで料理にとりかかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |