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小説(現代)
6
近づいてきていた紫苑様が寝たきりの僕を抱き起こして、ギュッと抱きしめた。
僕は紫苑様の行動に目を見開く。
「まだ、生きているな」
紫苑様はどこか強張った声で僕に問う。
「は、い………」
掠れた声で何とか声を出す。
その僕の返事を聞くと、紫苑様は少し体を離し僕と向かい合った。
僕は温もりが離れたことに寂しさを覚えたが、もうこの腕も胸も僕の物ではなかったことを思い出した。
「なぜ、勝手なことをした」
紫苑様のその問いに僕は首を傾げるしかなかった。
何の事だか全く見当もつかない。
「お前は、俺のものだろう。その命も、目も口も腕も声も全ては俺のものだろう」
「で、も………」
僕は言葉を紡ごうとしたが、うまく言葉が見つからない。
「他の誰にも渡さないぞ、たとえお前が愛したものがいても俺はそいつを殺してでもお前を傍に置く。勝手に離れていくことは、手の届かないところにいくことは許さない。お前は俺の対で唯一なのだから」
紫苑様は何故か縋るような声音で僕に告げてきた。
「傍に…そ、ば…いて、いい……?」
僕は涙でゆがむ世界を必死に腕を伸ばした。
その手は大きな手で包み込まれた。
「ああ、傍にいろ。一生離れるな」
紫苑様はいつものような命令口調で告げてきた。
僕は、そんな紫苑様の姿に本当に小さく微笑んだ。
僕が覚えているのはそこまでだった。

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