01-8 必死に走った。 説明の出来ない衝動に突き動かされるままに。 するといつの間にか足を向けていたのは海で、そう気づいた頃にはいつも仲間と一緒にいる海岸に来ていた。 道路から仲間を見つけると悠は大きく手を振る。 もう何時間もそこにいるかのように寛いでいて、学校とは違って心が和む。その中にいた一人の女性が悠に駆け寄ると、砂浜に下りてきた悠の隣に立つ。 「珍しく制服着てるじゃない。今日は学校行ってきたの?」 「…いえ」 口ごもる悠に女は、真紀は明るく微笑んでみせた。 真紀は悠の兄の彼女で、悠にサーフィンを教えた一人だ。そのサバサバした性格から男女共に慕う者が多く、悠もその一人だった。 小麦色の肌に女から見ても眩しく感じる整った身体。それ以上に魅力的な人格。すべてが悠の憧れであった。 そんな真紀に行きかけた学校から逃げるように帰ってきたなんて知られたくないと悠は思っていた。 でもそれさえ真紀は見抜いているようで、ますます恥ずかしく思う。 「大人の言うことじゃないかもしれないけど、無理に行く必要ないのよ」 「…でも」 「ん?」 「約束、したんです」 昨夜のことを思い出していた。約束なんて大げさなことではないけれど悠には大切な会話だった。 あんなにも素直に自分の気持ちを話したのは久しぶりで今思い返しても恥ずかしくなってしまう。 それでも自分に会いたいと思ってくれた黒羽の言葉に反することをしたくなかった。 それなのに。 「もっと強くなりたいです」 「そうね、みんなそう思ってるのよ」 「真紀さんも?」 「もちろん」 うん、と伸びをすると真紀は優しく笑った。それにつられて悠も笑みを浮かべる。日もだいぶ高くなり、シャツから出た腕がじりじりと焼けているようだ。 「ゆっくりでいいんじゃない?」 そう言って真紀は海へと駆けて行った。 そのまま海へと泳ぎだした姿を見て無性に泳ぎたくなる。 悠は鞄を持ち直すと家を目指して走り出した。 [*前][次#] [戻る] |