03-12 真紀の店ではお手洗いは他のテナントと共用で、一度店の外に出なければいけない。 と言っても、ほとんどが夕方には店を閉めてしまうセレクトショップばかりで、この時間は真紀の店の客以外が使うことはほとんどない。 「悠?」 「…淳が帰ってくること」 「あぁ、教えなくて何か問題でも?」 「問題って…っ!」 亮の飄々とした態度に悠は苛立つ。 しかし先に知っていたからといって、何か変わるわけでもないとわかってもいる。 まとまらない考えと、落ち着かない心に翻弄されて悠は今にも泣きだしてしまいそうだ。 「いつだって亮はそうだ。大切なことは何も教えてくれない」 「それで困ったら淳が助けてくれるんだよね」 「いい加減にして!」 「どっちがだよ」 悠は両腕を掴まれ、背中にあった壁へと押さえつけられた。 背中に痛みを感じながら、自分を見る瞳に恐怖を覚える。 亮に対して怖いと思ったことは何度かあった。 だけどそれは今とは違う。 腕を掴む手の大きさ、そこにかかる力。 圧倒的な差を見せつけられる。 初めて、男だと意識をした。 「悠が欲しいのは誰?淳?バネ?それともただ優しくしてくれる人?」 「ちょっ、り…亮…?」 「優しくして欲しいなら俺がしてあげようか?」 「やめてよっ!!」 悠が力いっぱい腕を振り払うと、次は悠の顔の横に手をつく。 いつもと違った様子に、悠は言葉を失った。 [*前][次#] [戻る] |