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4、 side会長→風紀委員長
その日は朝から大雨が降っていた。
日曜日なので学校は休みだが、いい加減部屋で一人で悶々とすることに飽きた俺は、学園の図書館に来ていた。
この学園の図書館はそこら辺の学校のそれとは比べ物にならないくらい大きい。
さすがお坊っちゃん学校だ。
だが、この学園の生徒たちは小学校からずっとこんな充実した環境にいるため、この図書館がどれ程すごいものかわからないらしい。
校舎の外れに位置することもあって、いつ来てもここには人がいない。
そのおかげで、一年の頃から時間があくとここに来ていた俺はすっかり司書のお兄さんと親しくなっていた。
「ああ、速水君。この間君が言ってた本を買ったんだ。小説のコーナーに入れおいたから、あとで見てみてね」
あまり多くない図書館の利用者のうちのほとんどが、この人目当てだと言われるイケメンな司書のお兄さんは、俺の顔を見るなりにっこりと微笑んだ。
やっぱりかっこいいなこの人。
これは相当遊んでいるに違いない。
「ありがとうございます」
いいよな。
俺の経験上、こういうイケメンはセックスも上手いんだよな。
それにチンコもでかそうだし。
今すぐ抱いてくださいって言ったら俺とセックスしてくれねえかな。
「どうしたの?なんか最近元気ないよね。僕でよければ相談にのるよ?」
相談とかいいですから、今すぐ貴方の息子さんを俺に下さい。
なんてな。
そんなこと言えるわけがない。
こんな馬鹿なこと考えるなんて、俺も大概欲求不満だな。
「大丈夫です。‥たいしたことじゃないんです。心配してくださってありがとうございます。」
「そう?まあ、なにかあったらいつでも言ってね」
こんないい人にまで発情する俺って終わってるよな。
司書のお兄さんにお礼を言って小説のコーナーに向かう。
新刊の棚に行って、最近購入してもらったという本を探すが見当たらない。
「おかしいな。あの人がああ言ったからには、まだ借りられてないはずだが‥」
「もしかして、これを探してるのか?」
首を傾げながら本棚を見ていた俺は、突然後ろから声をかけられて振り返った。
「げっ!」
人の顔を見るなりげっとは失礼なやつだな。
「なんでバ会長がここにいるんだよ」
「それはこっちの台詞だ。アホ風紀」
そこにはなぜか滅茶苦茶嫌そうな顔をした風紀委員長がいた。
「俺はここの常連だ。がさつなお前がこんなところに来るなんて、雨でも降るんじゃないか。‥ああ。だから、今日はこんなに大雨なのか」
「うるせーな。俺がどうしようとお前には関係ないだろうが。あー、嫌なもん見たぜ。ったく、下半身馬鹿は部屋で親衛隊とよろしくしてろよ。」
ちなみに、俺と風紀委員長はすこぶる仲が悪い。
なにか問題があったわけではないが、気付いたら目が合うたびに嫌みを言い合うようになっていた。
そういや、なんで俺こんなにこいつと張り合ってんだ?
「‥おい?いきなり黙りこんでどうしたんだよ?」
俺たちの言い合いは、いつもは誰かが止めるまで続く。
というか止められてもなかなか止まらない。
突然喋るのを止めた俺を見て、風紀委員長が眉をひそめる。
「この顔見ると、なんかムカツクんだよな」
「ああ!?てめえ、喧嘩うってんのか?」
「いや。そういや、なんで俺たちってこんなに仲が悪くなったのかと思ってな」
俺がそう言うと、風紀委員長はますます眉間の皺を深くした。
「なんでってそりゃ‥‥。そうだ!お前が俺のかわいい桔梗を悲しませたからだろうが」
「桔梗?‥ああ。風紀委員の中野のことか」
「中沢だ!‥‥お前一年半も同じクラスやってて、まだクラスメイトの名前も覚えてないのかよ」
やつは呆れたようにそう言った。
どうやら嫌味ではなく真剣に驚いているらしい。
「じゃあお前はクラスのやつの顔覚えてるのかよ」
「当たり前だろうが。なんなら、誕生日と血液型まで言ってやろうか?」
「なんでそんなことまで覚えてるんだよ」
自慢気に胸を張る風紀委員長がおかしくて、俺は思わず吹き出した。
「お前、すげぇな」
あの会長が笑っている。
これはまたレアなもん見たな。
慎一郎に恋人がダメなら、新しい趣味でもつくりなよと言われた俺は、てっとり早く読書でもしようと、図書館に来ていた。
それが、まさかこんなところで会長に会うなんてな。
「お前もその本借りるのか?」
しかもなにを考えているのか、会長はいつもとは違ってそこそこ柔らかい表情で俺にそう訪ねてきた。
なんだよ。
いつもはしかめっ面ばっかだっていうのに、一体どうしたっていうんだ。
会長が俺に嫌味を言わないなんて雨が降るぞ。
ってもう既に降ってんのか。
「だったらなんだよ」
でもまあ、さっきこいつが言ってたことはたしかに不思議なんだよな。
なんで俺とこいつはこんなに言い争いばかりするようになったのだろうか。
ああは言ったものの、桔梗のことがあった以前から仲悪かったしな。
同じSクラスでも、俺は理系でこいつは文系だから受ける授業も結構違う。
だから俺が風紀委員長になるまでは、ろくに話したこともなかった。
多分、初めは些細な言い合いだったんだと思う。
なにかと比べられることの多かった俺たちは、お互いを意識していたのだろう。
「いや。お前は上下刊の下の方から本を読み始めるのかと思ってな。まあ、お前の趣味ならいいんだが」
「あっ」
訂正。やっぱりこいつムカツクわ。
「ちなみにその本はシリーズものだ。一巻はこっちだ」
やつはにやにや笑いながら、俺に一冊の本を差し出してきた。
「別に、適当にとっただけだからいい」
「まあ、そう言うな。これ結構面白いぜ。内容はくだらないが、暇潰しには最適だ」
多分お前も気に入るだろうと言った会長が、俺の手にあった本と自分が取り出した本を入れ換える。
「というわけで、これは俺が借りていく」
「おいっ」
勝手に貸し出しカウンターに向かう会長を呼び止めようと声をあらげると、図書館の職員にお静かにと注意された。
それを聞いた会長はカウンターに本をおいて振り返ると、声をださずにばーかと言った。
「そちらの君も貸し出しですか?」
人のよさそうな職員はそう言って手を差し出した。
ちくしょう。こいつらぐるかよ。
「‥お願いします」
引っ込みがつかなくなった俺を見て、会長がまたくすくすと笑った。
その日借りた本は確かに面白かった。
俺たちはどうやら、趣味が合うらしい。
それから俺は何度か図書館に行ったが、その度になぜか会長に本を紹介してもらっている。
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