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3、side風紀委員長



「あのクソ会長!ぶん殴ってやる」

「やめてよ!僕が悪かっったんだから!」


かわいい桔梗をあの下半身馬鹿会長が悲しませたという話を俺が聞いたのは、その日の放課後のことだった。


「じゃあ、暴力事件ってことで反省室行きだ!」

「会長は暴力なんて」

「言葉の暴力だ。なあ、お前も許せないだろ?」


俺に今日の昼休みの出来事を報告してきた風紀委員にそう訪ねると、そいつは慌てて何度も頷いた。

「もう。黙っておいてって言ったのに」

頬を膨らませた桔梗が、その風紀委員を睨み付ける。
ちくしょう、羨ましい。

笑顔の桔梗もいいが、拗ねたときの桔梗はいじらしくてかわいい。
あのアホ会長、こんなにかわいい桔梗に興味を示さないなんてインポかよ。
頭がどうかしてるとしか思えない。
あいつはやっぱりどうしょうもない馬鹿だ。

しかし、かわいい桔梗はどうしたことか、あの間抜け会長に惚れたらしい。

それだけでも信じられないというのに、あのクズ会長は桔梗の必死のアピールを無視しやがったのだ。


「俺があのホスト教師に呼び出されてなけりゃ、その場で会長をぼこぼこにしてやったのにな」

「そう言うと思ったから、一馬がいない隙を狙ったんだよ」

「あ?」

「とにかく!会長に変なことしないでよ。絶対だからね」


嫌だね。
いくら桔梗の頼みでも今回ばかりは聞くわけにはいかない。
あのバ会長は、バ会長の分際で、桔梗に恥をかせたんだ。


「許せねぇ」

「会長が、桔梗と楽しくお喋りしててもムカツクくせに」


そう言って紅茶を差し出してきたのは、風紀委員会副委員長の慎一郎だ。

俺は慎一郎にうるせーと返して、カップを受け取る。
慎一郎は部屋の隅でがたがた震えていた風紀委員にもカップを渡した。
相変わらずまめなやつだ。


この七巳慎一郎と中沢桔梗と俺は、初等部からこの学園に一緒に通った幼馴染みだ。

そして俺と慎一郎は昔から桔梗を二人で守ってきた。
今と変わらず、いや、ちまちましてた分今よりもっとかわいかった桔梗は、小さいころからずいぶんと危うい存外だった。

一緒に電車に乗れば隣で痴漢にあうのは当たり前、公園で三人で遊んでいると桔梗が誘拐されそうになっていたこともあった。
しかしそんな目にあっておきながら、高校生になった今でも、桔梗にはいまひとつ危機感が足りない。
知らないやつには着いていくなと何度言っても、すぐに騙されそうになる。
桔梗は自分が性的対象に見られているなんて考えもしない。

俺が何度こいつに不埒なことをしようと近づいて来たやつらをすり潰したことか。

俺が風紀委員長になったのも、半分は桔梗を守るためだ。
まあ、もう半分はいけすかない不良どもを正義の名のもとに痛め付けることができるならなんだが。


「いいか。男は皆狼なんだ。会長なんてとくにその代表みたいなもんだ」

「それ聞きあきたよ。それに、会長はいい人だもん。僕がこの前道に迷ってたとき声かけてくれたし」


「なんか、入学して一年半年もたってるのに、まだ道に迷う桔梗も、持ち上がりのクラスメイトの顔全然覚えてない会長もらしくて笑えるよね」

「笑えねぇよ。それに桔梗はちょっとドジなとこもかわいいんじゃねえか」


かわいい桔梗が困ってたら親切にするのは当然のことだ。
それくらいで惚れられるなら、俺なんかもう桔梗と結婚していてもいいくらいだ。


「一馬って親バカだよね」

「親?せめて兄バカだろ?」

「ううん。口うるさいとこなんてお母さんそっくり」


だというのに、この言われようはないだろう。
結構落ち込むぞ。

「じゃあ、僕は空手部の稽古があるから」

俺が本気ですねる前に立ち上がった桔梗は、ごめんごめんと笑った。
その笑顔一つでなんでも許してしまう自分が憎い。


「なら、楢崎連れていけ」

「一人で大丈夫だよ。もう。そういうところが過保護なんだよ」

俺がずっと空気だった風紀委員を指差すと、桔梗は苦笑した。

「会長とのことが噂になってるだろうからな。念のためだ。悔しかったらもっと空手の練習して、自分の身を守れるくらい強くなれよ」

風紀委員が親衛隊に襲われては風紀の名折れだと言うと、桔梗は唇を噛み締めて頷いた。


「わかった。楢崎お願い」

「は、はい!中沢さんとご一緒できるなら光栄です」

風紀委員会の期待の新人楢崎は、情報収集能力に優れ腕も立つ。
しかしかわいいチワワタイプの男の子に滅法弱い。


「楢崎ぃ。変なことしたら、ボコるからな」

このドヘタレに警告する必要もないが、一応脅しはかけておく。
とたんに真っ青になって固まった楢崎を横目で見て、桔梗は小さくため息をついた。




「空手部なんてやめればいいのに」

ドアがしまったのを確認してそう呟くと、慎一郎が苦笑した。

「それ、本人の前で言わなかったことだけは誉めてあげるよ」

「言ったら、またうざがられるだろ」

「うざいってわかってるなら、止めなよ」

慎一郎が俺の言葉にため息をつく。
その仕草がちょっとムカついたが、寛大な俺はなにも言わずに軽く慎一郎を睨むだけにとどめた。

大抵の風紀委員は俺が不機嫌そうにするだけで、びびって話しかけてこなくなるが、ずっと一緒にいる慎一郎は、今さらこんなことで怯えることはなかった。


「桔梗が自分から強くなりたいって空手部に入ったんだ。いいことじゃないか。僕たちだって、いつまでも守ってあげられる訳じゃない」

「わかってるさ。でも、桔梗をかわいがって面倒みるのは俺の生き甲斐なんだ。桔梗に独り立ちされたら、俺どうすればいいんだ?」

「新しく恋人でもつくりなよ」

「桔梗ぐらいかわいいやつがいればな」

「抱きたいランキング2位は僕だけどね。僕は一馬みたいな面倒くさいタイプはお断りだから」


そう何を間違ったか、毎年新聞部が製作するランキングで、桔梗と慎一郎は1-2フィニッシュを決めた。

桔梗はともかく慎一郎が2位とかレベル低いなと思っていると、副委員長の席からボールペンが飛んできた。

「危ねえな!」

「今失礼なこと考えてたでしょ。一馬はすぐ顔にでるんだから」

だからってボールペンはないだろ。
せめて消しゴムとかにしろよ。

「それぐらい天下の風紀委員長サマなら、簡単に避けられるでしょ」


「お前はエスパーかよ」

理解されて嬉しい以前にぞっとするわ。

「だから全部顔にでてるって」


慎一郎はそう言って笑顔でシャーペンを構えた。















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