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4、side会長
生徒会室に数学教師で生徒会顧問の五十嵐がやって来たのは次の日の放課後のことだった。
五十嵐は教師版のランキングで二年間連続抱かれたいランキング一位をとっている色男だ。
脱色した茶髪と、着崩したスーツはとても教師とは思えないが、この男にはよく似合っている。
ここに来る前はどこかでホストをやっていたらしいという噂があるのも頷ける。
ちなみに、こういう大人のフェロモンあふれる男は、俺の超タイプだ。
俺って昔から、年上好きなんだよな。
いいよな、五十嵐。
いろんなテクニック持ってそうだよな。
「そういうことで、俺がお前らと協力してこの企画進めていくことになったから。よろしくなー」
いつもの軽いのりでそう言った五十嵐は俺に手を差し出してきた。
なんで今さら握手なんだ?
そしてなんでお前らはそんなに五十嵐を睨んでるんだ?
「ああ‥?」
首を傾げながら五十嵐の手を握る。
意外と指綺麗だな。
そんなことを考えていると手を離すときに、指先をつっと撫でられた。
あきらかな性的意識をもつ接触に、驚いて顔を上げると、五十嵐はにやりと笑った。
そういう嫌みな表情もこいつがするとかっこよく見えるから不思議だ。
どうやら五十嵐の動きに気付いていない役員たちを横目で確認する。
そして役員たちに見えない角度で俺も微笑んでみせた。
五十嵐は俺の反応に一瞬目を見開いたが、すぐに好色的な笑顔にもどった。
五十嵐は生徒会顧問だが、この学園では生徒主体で行事の運営が行われているし、顧問印を貰いにいくようなときは他の役員にお使いをさせていた。
だから俺が五十嵐とまともに話したのは、生徒会長に就任したときくらいだ。
文系の俺は理系と三年の数学を担当する五十嵐の授業を受けたこともない。
「そういや、速水って最近高瀬と仲いいんだって?もしかして付き合ってんのか?」
五十嵐のその言葉に、安岐たちが吉本みたいなずっこけ方をする。
お前らなにやってんだよ。
仲いいな。
というか、五十嵐も何を馬鹿なことを言っているんだ?
「は?そんなわけないだろうが。あいつは‥と、とと友達だ」
なんで俺と一馬なんだよ。
ありえないだろ。
だいたいあいつだって、付き合うならもっとかわいい子がいいはずだ。
ん?
でも、それならなんであいつは俺とセックスなんかしてるんだ?
それもかなり頻繁に。
「へー。なるほどね」
なにがなるほどなんだよ。
一人だけなにもかもわかったような顔しやがって。
「言いたいことがあるならっておい!?」
視界の端で星野がものすごい顔をしている。
いつも無表情なのに、そんな筋力使いそうな顔すると疲れるぞ。
五十嵐に腕を引かれて抱き締めれた俺は、ため息をついた。
一体こいつはなにがしたいんだ。
五十嵐の逞しい胸に手をついて身体を離そうとした俺はしかし、五十嵐が俺の耳元で囁いた言葉に固まった。
そんな俺を見て、たちの悪い笑顔を浮かべた五十嵐が俺から離れた。
「首の後ろ。シャツでぎりぎりのとこにキスマークついてるぞ」
「あ?」
「これだから、嫉妬深い男ってのは嫌だよな」
「何をしてるんですか!?用件が終わったなら、さっさと出ていってください!」
俺と五十嵐の間に割り込んだ安岐が視線を送ると、田部と星野が両側から五十嵐の肩を掴んだ。
「はいはい。そうせかすなって。言われなくても帰るさ。お前の言う通り用事は終わったからな」
五十嵐はそう言うと、二人を払いのけて生徒会室から出ていった。
「またな。速水」
「さっさと行けよ、このクソ教師!」
扉を開けて振り返った五十嵐に、安岐が食器を運ぶときに使うステンレスのトレイを投げたが、それはガシャンと音を立てて扉にぶつかった。
「田部、塩です」
「塩なんて置いてないよ」
「ちっ」
なんというかお前キャラ変わってるぞ。
意外と熱い男だったんだな。
「大丈夫か?」
首に手をあててぼんやりと安岐を見ていた俺の傍に星野が寄ってくる。
「なにがだ?」
「‥いや」
「大丈夫だ。たいしたことはされてない」
俺がそう言うと、安岐と言い争いをしていた田部が気まずそうに俺の顔を見た。
「大丈夫って顔してないよ。なに言われたの?」
「お前には関係ない」
俺の言葉に田部が息をのんだ。
すまないが、本当にこれは俺個人の問題だ。
「一馬とセックスしてるんだろ?先生はそういうの友達とは言わないと思うな」
さっきの五十嵐の言葉が耳から離れない。
友達じゃないってどういうことだよ。
「帰る」
「あっ、うん。‥また明日」
「ああ」
一度伸ばした腕を引っ込めた田部が寂しそうに笑った。
その表情に少しだけ心が痛む。
例えば、田部が俺の友達だったとして、やっぱり友達なんかじゃないと言われたら俺はどうするだろうか?
それが安岐や星野だったら?
いや、やめよう。
こんなこと考えも無駄だ。
俺と一馬のことは、俺たちだけにしか適用されない。
なあ、一馬。
お前にとって、俺ってなんだ?
友達かそれとも‥‥
ぼんやりと考えごとをしながら歩いていると、スボンのポケットで携帯電話が鳴った。
この着メロは一馬だ。
ついこの間一馬がふざけて設定した。
そんなことしなくても、俺の携帯に電話してくるのなんてお前だけなのに。
「もしもし?」
『なあ、突然だが、今日俺の部屋に来ないか?』
「ああ。いいぞ。何時だ?」
『目的くらい聞けよ。お前も見たいって言ってたDVD が届いたんだ。夕飯終わったら来いよ』
電話口の向こうで一馬が笑っている。
それだけで、五十嵐に言われたことなど、一気にどうでもよくなった。
「お前はすごいな」
『なにがだ?』
「いや。なんでもない。じゃあ8時過ぎに行くな」
そう言って一馬が何か言ってくる前に電話を切った。
心のもやもやが完全になくなったわけではないが、一馬が電話をかけてきてくれて、一緒に遊びに行ってくれて、友達だって言ってくれるなら、それでよかった。
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