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第1章・第4話



 街を少し歩けば窃盗の騒ぎ。
 妙な薬の誘い。
 道の側で動かない人間。
 今日もこの街は変わらずにいた。

 俺を除いては。


【第1章・第4話 旧神からの贈り物】


「やあやあ少年!
偶然!偶然じゃないか!」

「…何の用だ」

 街を歩いていたら、昨日会ったあの怪しいフードの人間に出会った。
 フードを被ってよく見えない顔。
 唯一見える口元は、相変わらずとてもにこやかだ。

「そう殺気立たせないでくれ。
昨日の事は悪かったよ、すまんね」

「悪く思うなら関わらないでくれ」

「そう焦らないで話を聞いてくれ。
君のためにこれを調達した」

 そう言ったフードの人間は、新調された皮袋を青年に手渡した。

「以前渡した物は、あまり気に入ってくれなかったようだからね。
今度は必要そうな物を用意してみたんだ」

 少年は訝しげにフードの人間を見る。
 口元は笑みを崩していない。
 何を渡したのか全く検討がつかないが、少年は警戒をしながら袋を開いた。

「包帯と薬……?」

「そう、それは動物によく効く薬さ!
わざわざ東洋の国に行って、腕の良い薬剤師から調合をして貰ったのだ。
どうだい、気に入ってくれたかな?」

「東洋…?
いや、それより何故コレを……」

「君が今、怪我をしている野良犬を手当している事なんて、簡単にわかったよ。
おっと、何で知っているかの質問はお断りさせていただくよ。機密情報だからな」

 口に人差し指を当てて、お茶目な振る舞いを見せる。

 しかしノーデンスが、どうやって少年が犬を介抱しているのかわかったのかを知りたい人もいるだろう。
 この優しいノーデンス様が、特別に教えてあげよう。

 一に、以前呼び出した眷属の夜鬼からの情報。
 二に、ノーデンス自身の不思議な力。
 以上2つだ。

 そこから、少年が地下道のような所で怪我をした犬を介抱していること。
 少年は動物には優しい事。
 その性格故か、動物から好かれている事。
 時々犬やカラスと共に行動をして、此処を生き抜いている事その他諸々。

 え、個人情報保護法って知っているかだって?
 この世界にそんなのあったかなぁ?
まあ、あったとしても、知る権利ってのがあるから大目に見てくれ。
 バレなきゃ犯罪じゃないんだからね。

「名前といい、コレといい、ますます怪しい奴だな」

 少年の警戒心は崩れることは無かったが、何処かで「呆れた」と脱力してしまうような感情が沸き起こった。

「名前?」

「お前、俺の名前知ってるだろ。
前呼んだじゃないか」

「そんな事あったカナー?」

 すっとぼけている。
 騙す気が更々ない口調で戯けてみせると、またニコニコとした笑みを浮かべ直した。

「まあ、私の事は気にしない方がいい。
取り敢えずそれを、あの犬に持って行ってあげたらどうだい?
ああそうだ、さっきコレも買ったのを忘れていた。
君の分もあるからね」

 そう言うと、今度は大きめの麻袋を手渡された。
 大きい袋はさっきとは段違いに重く、気を緩めていたせいで地面に落としそうになった。

「重いなら重いって言……」

 フードの人間に文句を言おうと顔を上げると、そこにはもうあの人間の姿は無かった。

「消えた……?」

 辺りを見回しても姿が無い。
 隠れる事が出来そうな物も街路地も無い。
先程まで目の前にいたのに。

 ふと、ポケットに何か入っている異変に気が付いた。
取り出して見てみると、それは折り畳まれた紙切れ。
それを開くと、そこには機械的な黒文字で”探さなくていいから早く行きなさい”と書かれていた。

 またお見通しって訳か。

 小憎たらしい笑みをしたあの人物を思い浮かべる。
 ああ、本当に鬱陶しい奴。

 紙切れをぶっきらぼうにポケットに入れると、麻袋を持ち上げて、言われた通りにあの犬の元へと向かった。
この時気づく事は無かったが、少年は荷物をさっきまで重いと感じていたのに、今は不思議と軽々と持ち上げられていたのだった。

 心のどこかで、

 明日も会えたら。

 そんなふわふわとした気持ちが芽生えていた事にも、気づく事は無かった。




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あきゅろす。
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