八丁堀もしもなお話集
一郎太・桜編A
それは半月前の夜、下手人は殺しとはいえ素人浪人一人の為、兵助と一郎太、佐々岡の三人での捕り物となった時のことだ。
捕まえるのはたいしたことない……そう思っていたのだが、下手人が思ったよりかなりの抵抗を見せなかなか縄をかけれないでいた。
やたら刀を振るう下手人に兵助も一郎太も少々戸惑っていたのだが、これでは埒があかないと一郎太が下手人に突っ込んでいった。
しかし足下の小石につまずき失速してしまい、その隙を下手人に狙われてしまった。
距離的に兵助が来ても間に合わず、体勢を崩した状態の一郎太は斬られるのを覚悟した。
そこへ助けに入ったのは佐々岡だった。
しかし佐々岡もまた急いで駆けつけた為、力の強い下手人の刀を受けた鉄鞭の向きが悪く弾かれてしまったのである。
弾かれ空を切る刀が佐々岡の肩をかすめた。
佐々岡が痛みに顔を歪める。
そんな佐々岡に下手人が刀を振るった。
その時自分でもどうなったのかわからない。
ただ痛みに耐える佐々岡の顔を見て怒りが一気に噴き出した。
次の瞬間、一郎太は佐々岡をかばうように下手人の刀を十手で受け、そのまま弾き飛ばすと十手で刀自体を弾き、相手の手を何度も殴りつけた。
その様子を見て、兵助が慌てて無我夢中で殴る一郎太を止めに入る。
兵助に止められ一郎太は、はっと我にかえった。
今自分はどうなったのか……自分でも理解出来ない。
ただわかったことがある。
それは自分のせいで傷ついた佐々岡に申し訳ない気持ちと共に、今までにない感情が湧き出てきたことだった。
これ以上傷つけたくない。この手でお守りしたい。
――愛しい人を。
それ以来、佐々岡の事が気になるようになってしまった。
しかもまずいことに青山や兵助までもが佐々岡に思いを寄せているという。
困り果てた挙げ句、一郎太は八兵衛に思いを打ち明けたのであった。
それ以来、ちょくちょく話を聞いてもらっている。
だから八兵衛にはすぐに悩んでいることがばれてしまうのだ。
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