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『続』八丁堀の七人
  第一巻 サイドストーリー集
嘘と欲と 女与力の怒りの鉄槌C

ひんやりと冷たい空気が町を包み込む。





飲み屋街を少し外れた橋を桜は歩いていた。

月の明かりが水面に映る。

いつもは隣に青山がいるからかあまり気にならなかったが、夜の暗闇は心を不安にさせる。

桜でいることもさらに不安を増幅させているようである。




しばらく歩いていると突然周りを浪人のような男に囲まれた。

「随分可愛い顔してるじゃねえか」


「お前娼婦じゃねえよなぁ。その格好じゃ」


「こんな上等な女がいるとはさすがはお江戸だな」


浪人が桜を見ながら話す。



いつもならこのくらい囲まれてもなんとも思わないのだが、帯刀せず、女の姿でいるだけで、どうしようもない不安が押し寄せる。





――情けない。





そう思いながらも浪人からは目を離さない。


「……何用ですか?」


「言葉遣いも違うねぇ」


「武家の女か。これなら喜んでもらえるだろ」


そう言うと前にいる浪人が桜の腕を掴む。

「何をするんですか!」


「なぁにちょいと一緒に来てもらいたいのさ」


「おいらたちは別になんにもしねぇよ」


「怪我したくなかったら黙ってついてきな」


そういって刀に手をやる。





「……わかりました」


桜が渋々答える。


「よし、連れていけ」


そう言うと桜を町とは反対の道へ連れて行く。





情けない、与力なんだしっかりしろ!お前がそんなんでどうするんだ!


怖さや不安で押し潰されそうな自分に心の中で喝を入れる。





しばらくすると古い掘っ建て小屋の前に来た。

「旦那、連れて来やしたぜ」


そう言って小屋の戸を開ける。

「今日は極上な女を捕まえやした」


前にいた浪人が桜の腕をつかみ小屋に入るよう指示する。


「痛っ……何するの!」


「ほぅ……こんな美人に巡り会えるとはな」


小屋の奥の部屋から声がした。




この声は……。




「それじゃあ旦那、楽しんでくださいな」


言って浪人達は戸を閉め小屋から離れていった。


「ちょっと!」


桜が戸の方に声をかけるが反応はない。




「今宵は楽しめそうだ」


奥にいた男が此方へ近づいてくる。

やっぱり……。






きつめの顔立ちに酒焼けの声……高山朔之心だ。


「あんな時間にあんな所を歩いてるなんてお前江戸に来て日が浅いな?」

そう言いながら桜の目の前で止まる。


「……あなたは?」


「北町定廻りの青山久蔵だ」

青山の名前を聞いて一瞬怒りがこみ上げる。


「……定廻りの旦那様が私に何のようですか?」


「吟味をしていてな。皆に協力してもらっている。お前にも協力してもらいたい。さぁこっちへ来い」


言うと桜の腕を無理矢理引っ張り奥へと連れて行く。



奥には布団が敷いてあるだけだった。

その布団へ桜を投げ捨てるように落とした。


「いた……!何するんです!」


布団に倒れ込んだ桜の上へ高山が覆い被さる。


「吟味って定廻りの旦那様がなんの吟味をするんですか!」


すると高山がにやっと笑って言った。







「江戸の女の吟味だよ」








言った途端高山が桜の腕を押さえつけ片手で着物の襟元を緩め始める。


「ちょっと!やめなさい!」


「そこまででぃ!高山!」


突然小屋の戸が開き青山達が入ってきた。


「何奴!」


「北町奉行所である!高山朔之心!北町定廻りの名を語り女を次々手込めにした罪は重いぞ!神妙に縛につけ!」


「なんだと!?」


「小屋を見張ってた浪人達は既に捕らえてある。観念するんだな」


八兵衛が高山に向かって言い放つ。


「何故わかった!」


高山が八兵衛達を睨みつけて言う。


「何も知らずに定廻りの名前を語るからだよ。悪い事は隠せないのさ」


桜が襟元を直しながら言った。


「なに?お前一体……」


高山は振り向きながら桜に問いかける。


「北町定廻りの青山久蔵?笑わせるな!青山は二枚目でそんなきつい顔はしてないし、癖はあるが酒焼けした声じゃないんだよ。それに与力だから定廻りとは名乗らない」


「何故そこまで知っている!」






「……私も与力だからだよ!」


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