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『続』八丁堀の七人
  第一巻 サイドストーリー集
嘘と欲と 女与力の怒りの鉄槌B

「こんなにいるのか……」


さすがに佐々岡も驚きを隠せない。


「旦那……この人はどうやらお腹に子を孕んでいるみたいで」


そう言って、徳松が一番最初に入ってきた小柄な女の肩を持った。




「お腹に子がいるのか?」




佐々岡がその女に聞くとこくりと頷いた。


「おいおいこりゃあ大変な事になってきたぞ」


磯貝が少し慌てた顔で言う。


「悪いが一人ずつ相手が名乗った名前を聞かせてもらっていいかい?」


「私は松井兵助です」


「私は古川一郎太」


「私は青山久蔵」


「私も青山久蔵です」


「私は佐々岡宗司です」




「なんだって?」




最後の女が言った名前を聞いて佐々岡が驚いた。


「佐々岡様まで……そりゃあいくらなんでも……」


磯貝が呆れた顔で言った。


「本当に何も知らないんですね……」


一郎太もびっくりして言う。


「なんでい、高山って奴は酒と女以外は頭にねぇろくでもねぇ男じゃねえかい」


青山も呆れた顔で話す。



「……佐々岡宗司は私だ。私は女でそれは与力の時に使ってる名前なんだよ」



「えぇ!じゃあ……」



「おめぇさん達は高山って言う与力に騙されたんだよ。怖い顔の酒焼けした声の男だろ?」


磯貝が問いかけると女達はそうだそうだと頷き合う。


「とんでもない野郎だな……高山って与力」


源吾が少し怒った顔で言う。


「……お前達には絶対仕返しさせてやるからな。奥の部屋に同じように騙された女達がいる。そこで存分にそいつについて話してきてくれ」


佐々岡はそう言って一郎太に案内させる。





「絶対許さないぞあいつ。ただ白州で裁かれるだけじゃ甘いし気が済まない。痛い目に合わせてやる!」


「……おい佐々岡落ち着けって。一体どうする気でぃ」


「みんなにに言いたい事を言わせてやるのさ。逃げさせはしない。お前達にも協力してもらうからな!」


言って佐々岡は奥の部屋へ入っていった。










「……佐々岡様完全にキレちゃってますよね」


兵助が不安そうに言う。


「普段あまり怒らない佐々岡様だからなぁ。一旦ああなると手が着けられないかもしれんな」


孫も心配そうに話す。


「青山様、どうします?」


源吾が青山に聞く。


「好きにやらしときゃいいじゃねえかい。女にとっちゃあこれ以上ひでぇことはねぇくらい大事な事だろうからな」


「心に出来た傷は私達じゃ計り知れないものですからね」


八兵衛も悲しそうな顔で青山の話に同意する。


「子をはらんでるとなりゃあ体にも負担だしなぁ。女は命を懸けて子を産み落とす。そうさせる男の責任は重大だ」


磯貝が厳しい表情で言う。


娘を産んだ妻を見ているからこその言葉だ。


「そうですよね。痛みも辛さも苦しみも全て女が請け負ってくれてるんですからね」


孫も磯貝の言葉に頷く。


子沢山の孫もまた妻の大変さを目の当たりにしてきている。


「……佐々岡様に任せましょう。きっとそれが被害にあった女達が一番納得する方法かもしれない」


八兵衛がみんなを見渡して言った。


「確かにかっとなってるのを見りゃあ心配になるかもしれねぇがあいつも与力だ。下手な真似はしやしねえよ」


「そうですよね。それに私達がどうこう言ったところで納得させられるかわからないし」


青山の言葉に源吾が納得する。


「では佐々岡様にお任せしましょう」


そう孫が言うとみんな頷いたのだった。

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