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『続』八丁堀の七人
  第一巻 サイドストーリー集
嘘と欲と 女与力の怒りの鉄槌A

佐々岡が立ち上がり奥の部屋の襖を開けるとお初がゆっくり出てきた。

「あなたが……」

八兵衛がお初に聞く。

「お初さんていうんだ」

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

お初が深々と頭を下げる。



「お初さんのせいじゃありませんよ」

八兵衛がお初に言う。

「そうですよ。騙したその男が悪いんですから」

一郎太もお初を気遣い声をかける。


「それにしてもなんで青山様の名前を使ったんでしょうね?」

「そりゃあ青山様は鬼与力と言われてるくらいだからなぁ。恨まれることもたくさんあるだろうよ」


「名前も知れてるでしょうしね。仮に青山様を知らなかったとしても名前を使うくらいなら出来ますよ」


源吾の問いに磯貝と兵助が答える。




「青山を狙ったのか、たまたまだったのか……もしたまたまならお前達だってわからないんだぞ」



「え……私達もですか!?」


一郎太が驚いて答える。




「佐々岡の旦那!」



そこへ徳松が入ってきた。




「……やはりいたか」




呟いて佐々岡は徳松の方へ歩いていく。


「この方もそうみたいで……」

そう言って徳松は女を一人呼び寄せた。


「お前さん名前は?」


「……かえと申します」


佐々岡が尋ねると女は不安そうに答えた。


「おかえさん、話は大体掴んでるんだ。相手は名前を名乗ったかい?」


「はい」


「教えてもらっていいかい?」




「北町定廻りの……吉岡源吾だと」


瞬間一斉に源吾に視線が集中する。



「お……俺じゃないよ!同心なのにそんなことするわけないだろ!」




「……いつも息抜きだとかいって岡場所出入りしたり、町中で女誘ったりしてるから疑われるんですよ!」


兵助が呆れながら源吾に言う。



「まぁそれも問題あるが……源吾がそんなことする人間じゃねぇ事はみんなわかってるさ」


磯貝が真面目な顔で話す。


「源吾、来な」


佐々岡が源吾を呼んだ。


「は、はい」


言って源吾は立ち上がり佐々岡の方へ歩いていく。


「おかえさん、一応顔と声を確認して欲しい」



そう言っておかえの前に源吾を座らせる。




「……違います。私が見たのはこの人じゃないです。こんなに優しそうじゃなかったし、声ももっとお酒で焼けてました」
その話を聞いてお初がびっくりした顔でおかえを見た。


「それ私も同じです!きつい顔の酒焼けした男!」


「あなたもですか!?」


「はい。……でも名前が違いますけど……」




「これでわかったろ?名前が違うってことは二人とも騙されてたのさ」



佐々岡が二人を見て言う。



「じゃあ一体誰に……」


おかえが眉をひそめて呟く。


「これからまだ被害にあった人が増える可能性がある。話を聞いていけば誰だかわかってくるさ」


そう言うと佐々岡が立ち上がった。



「二人とも悪いが奥の部屋で少し待っていてくれないか。何か思い出したら教えて欲しい。一郎太連れていってやってくれ」


「わかりました」



言って一郎太が二人を連れて行く。




「やっぱり役人の仕業なんですかね」


兵助が一郎太と二人を見送りながら言う。




「……だと思うぜい」


今まで黙っていた青山が話し出す。


「青山様、相手の男に心当たりがおありですか」


八兵衛が青山に問う。


「南町に新しく与力が来た話は聞いてるな」


「はい。駿府城代をやっていた方だと」


「正確には親から継いで駿府城代をやるはずだったが出来の悪い息子で務まらねぇってんで仕方なく奉行所に送ったって話だぜぃ」


「……確か定橋掛与力を任された奴だな」


佐々岡がふと思い出したように言う。


「佐々岡、おめえこの前奉行所内ですれ違ったはずだぜい」


「すれ違った?」


「理由は知らねえが確かお奉行に会いに来た時に、廊下ですれ違ったろ?あのだらしねえ男は誰だっておいらに聞いたじゃねえかい」


「……あぁそういえば……」


言いながら佐々岡がはっとした顔をして青山を見た。




「……狐みたいなきつい目に酒焼けの声!……そうだあの男だ!」


「……高山朔之心。酒と女に溺れて定橋掛与力ですら務まらねぇって話だ」


「では高山様が今回の?」


「間違いねぇだろうな」


八兵衛の質問に青山が肩で扇子を叩きながら答えた。


「……あの男!ただでさえ許せないのに……なんて奴だ!」



「佐々岡の旦那!」


徳松が慌てて入ってくる。


「他にもいたのか」


八兵衛が徳松に問いかける。



「はい。……五人も」



そう言うとずらっと女が入ってきた。







「五人もかよ!」





磯貝の驚いた声が響きわたった。

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あきゅろす。
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