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『続』八丁堀の七人
  第一巻 サイドストーリー集
嘘と欲と 女与力の怒りの鉄槌F

「これから大変だろうなぁ。生き地獄ってのはこういうのをいうんだろうな」


磯貝が険しい顔で言う。


「自分で招いたんですから自業自得ですよ」


一郎太が磯貝に言った。


「まぁそりゃそうだがよ」


「しかしとりあえず一件落着、良かったですね」


孫が佐々岡に笑顔で言う。


「ああ。やっと気分がすっきりしたよ」


「これでやっと佐々岡様のご機嫌も直りますね」


「もうあんなに怒らないでくださいよ」


一郎太、兵助がほっとした顔で言う。


「もう大丈夫だよ。お前達が怒らせない限りな」


言って佐々岡はふっと笑う。


「そういえば佐々岡様、昨日高山と対峙した時随分青山様をほめてましたよね」


「え?そうだったっけか?」


源吾の言葉に佐々岡が首を傾げる。

「そうですよ。二枚目だとかいい声だとか立派な噂だとか」


「まて。随分話が変わってないか、源吾」


「あれ?そうですかね?私にはそう聞こえましたけど」


「……二枚目と言ったのは認めるが、後はそんなつもりで言ってないぞ。あいつが青山を名乗ったからたまたま青山と比べただけなんだし。第一誉めるようなやつじゃないしな」


「なんでぃせっかくあの後抱いて慰めてやったのに随分な言い方じゃねぇかい」


机に向かっていた青山がちらりと呟いた。





「えぇ!?」





同心全員の声が重なった。


「青山!そういう言い方するのやめろ!冗談じゃ済まないだろうが!」


佐々岡が顔を真っ赤にして青山に詰め寄る。


「佐々岡様……あの後青山様と一体……」


「なんでもないよ!あるわけないだろ!馬鹿じゃないのか!」


「しかしその真っ赤な顔で言われましても……」


言われて佐々岡はう゛っ…と押し黙る。


「まぁ正確にゃあ怖いのを我慢して泣き出した佐々岡の肩を抱いて慰めた、だな」


「なんだぁ……ってでも肩を抱いたってのは抱きしめたってことですよね?」


源吾がぽつりと呟く。


「……そういうこったな」


青山が頷く。


「まぁ佐々岡様は女ですから怖いのは当たり前ですし、女に泣かれれば抱きしめて慰めてやるのも男としては当然かもしれませんね」


孫が佐々岡を擁護する。


「そうですよ、何も恥ずかしがることはありませんて」


一郎太が佐々岡に話し掛ける。
「……青山も源吾も人をからかい過ぎだ!」


佐々岡はぷんぷん怒りながら机に向かって歩いていく。


「あーあ怒っちゃいましたよ青山様に源吾さん」


一郎太が困った顔で言う。


「おめぇは本当に純粋だねぇ」


青山が佐々岡に言う。


「今日は許さないからな!」








……本当はそんなに怒ってはいなかった。

ただ、自分の気持ちやその事への恥ずかしさを隠したかった。





青山に抱いて慰めたと言われた時――。





不覚にも鼓動の高鳴りを感じてしまった自分がいた。



青山に抱かれる……一瞬想像した自分が恥ずかしくてついこんな態度をとってしまった。

こうなったらしょうがない、落ち着くまでしばらく怒ったふりをしていよう。






一郎太が源吾に謝らさせようとしているのを聞きながら、佐々岡はそう思うのだった。



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あきゅろす。
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