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『続』八丁堀の七人
  第一巻 サイドストーリー集
嘘と欲と 女与力の怒りの鉄槌D

「与力だと!女ではないか!」


「江戸で唯一の女与力を知らないとはな。お前が名乗った佐々岡宗司は私が与力でいる時の名前なんだよ」


「なにぃ……!」


「随分おいら達の名前で暴れてくれたみてぇじゃねえかい」


青山が高山を睨みつける。


「裁かれる前に教えてやるよ。青山久蔵はおいらだ。おめぇみてぇに薄汚ぇ野郎にゃ語ってほしかねぇもんだな」

「お前が……うるさい!町で噂になるような事をするような与力には言われたくないわ!」


「うるさいのはお前だよ!女を虫けらのように扱う悪い噂ばかりのお前と青山の噂とじゃあ月とすっぽんなんだよ!」


「なんだとぉ……!」


「お前は一度地獄へ落ちろ。源吾!一郎太!」


佐々岡が呼ぶと源吾と一郎太が訴え出た女達を中へ入れた。


「なっなんだこいつらは!」


「お前に手込めにされた女達だよ。……今度はお前の白州での吟味の前にじっくり話を聞いてもらおうか」


「よくも好き勝手やってくれたわね!」


「勿論あんたには責任取ってもらうわよ!」


「そうよ!この子なんてお腹にあんたの子がいるのよ!絶対逃がさないから!」


女達は高山を取り囲み言いたい放題話しまくる。




「や……止めてくれわかったから!俺が悪かったよぉ!」


しかし女達は止まらない。


「……怖えなぁ。女を怒らしちゃいかんぜぇ」


磯貝が青ざめながら言う。


「本当ですね。改めてしっかりしなきゃなって思いますよ」


兵助も驚きと恐怖の入り混じった顔で話す。




「どうだ高山!お前が犯した罪がどれほどのものかわかったか?」


「……わかったよ。わかったから助けてくれ……」




「今回の一件は北町、南町両奉行に伝えてある。お前の両親にも伝わるだろうからしっかり裁きを受け責任を取るんだな」




「ちきしょぉ……」





「後は白州できっちり裁いてもらおう。源吾、一郎太、みんなを引き上げさせてくれ」


「はい」


言って二人は女達を引き上げさせる。



「女は男のおもちゃじゃない。よくその胸に刻んでおくんだな。引っ立てぃ!」


佐々岡が叫ぶと磯貝が縄をかけ孫と一緒に連れて行く。


「だいぶ弱ってましたね。佐々岡様の作戦がかなり効いたんでしょう」


八兵衛が佐々岡に話しかける。

「これでしばらくは何も出来ないだろう。おそらく責任は高山家自体に掛かってくるだろうからな」


「そうですね。じゃあ私は兵助と浪人達を連れて行きます」


言って八兵衛は戸口へ向かう。


「頼んだぞ八兵衛」


佐々岡が八兵衛の後ろ姿に話しかける。





「気が済んだかい?」






八兵衛が出て行くと青山が佐々岡に言った。


「まあな。しかし吟味が終わるまでしっかり見届けなきゃならない。でもあの子達も言いたいことを言えただろうから少しは気が晴れただろうよ」


青山の言葉に佐々岡がそう答える。



「すまなかったな。色々頼んでしまって」



青山を見て佐々岡が言う。


「好きにやれっつったんでぃ。気にするこたぁねぇよ」


言って青山は佐々岡の頭をぽんっと叩いた。


「それに自分で言った割にゃあ最初から怯えた顔してんの見たらほっとけねぇしな」


「えっ……怯えてなんかないよ。堂々と歩いてたら囮にならないだろ?」


あの時の心を見透かされたようで佐々岡は慌てて否定した。


「そうかねぇ。周りを囲まれた時にあんな顔したの見たこたねぇけどな」


「気のせいだろ。あれくらいで怯えてたら与力なんてやってられないよ」


「……へぇ。じゃあ高山に押さえつけられた時も平気だったのかい?」




「……それは……」




「おいらはてっきりあれは本当に助けを呼んだ声かと思ったんだがな」


言って佐々岡の肩に手をやる。


「本当は磯貝に最初に行かせるつもりだったが、おめぇの声聞いてつい先走っちまった。でも平気だったって言うなら、もう少し待っても良かったかもな」


「そんなことないよ!……あれ以上遅かったら正直やばかった。何も抵抗出来なかったから。……怖かった。だから直ぐに青山が来てくれて安心したんだ」


思い出したのか、佐々岡はうっすら涙を浮かべている。



すっと青山の手が佐々岡の背に回ったかと思うと自分に優しく引き寄せた。


「だからいつも言ってるだろ?無理すんじゃねぇって。世の中考えてるように上手くはいかねえ。自分に危険が及んだり、こなせる域を超えるようなこたぁやるもんじゃねぇよ」


佐々岡は突然の行動にどうしていいかわからなかった。

でもこの温もりに妙な安心感を抱いている自分になんとなく気づいていた。


「怖かったんだろ?女なんだから当たり前だ。我慢するんじゃねぇ」





「……有難う青山」







佐々岡の目から涙が零れる。







「……おめぇは他の男にゃ指一本触れさせねぇよ」







「え?」






「もうこんな危ねぇ真似はするんじゃねぇぜぃ」


言いながら優しく頭を撫でる。


「わかったよ」


青山の優しさが心に染み渡る。






二人だけの時間がゆっくり過ぎてゆく――。


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