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貴方の涙はとても綺麗でした
長曾我部は驚いていた。あの氷の女王が、毛利の為に自分を殺してきた知将が、あの毛利元就が、隠居したというのだ。毛利の為に全てを捨ててきた男が、何故こんな早く隠居するのか。毛利の噂は朝一番で長曾我部の耳に入ってきた。野郎共が話していたのをうっかり聞いてしまったのだ。野郎共は俺に聞かせないように配慮していたが、やはりあいつ等には無理だろう。なぜなら俺はしっかりとこの耳で聞いてしまったのだから。毛利の隠居話を聞いた直後、長曾我部は己の耳を疑った。毛利とは先日刃を交えたばかりだし、毛利の口からそんな事一言も話されていない。そして何よりも、自分との決着もついていないのだ。隠居するというなら好敵手の自分に勝敗でもいうものではないのか。もしや好敵手と思っていたのは自分だけだったのか。長曾我部はどんどん考えこんでしまい、蹲る。
「毛利、何で隠居なんかしちまったんだよ・・・・」けれど長曾我部はインドアとアウトドアだったら断然アウトドア派だ。内気な考えを打ち払い、長曾我部はある決断に至る。
「悩むより聞いたほうが早いよな!!」
今日一番の大声で自身に渇を入れ、長曾我部は毛利のいる安芸へ向かう事にした。うじうじ悩むよりまず行動に移すのが長曾我部のモットーだ。そのまま長曾我部は部下を引き連れずに一人で富岳に乗り込んだ。目指す先は、本州、安芸。

 毛利の隠居した安芸は何故だかいつもと同じだった。なにも変わっていない。しいていうなら家督が隆元になったという事だ。とりあえず長曾我部は元就の所に通してもらう事にした。毛利の所には時々お邪魔させてもらっている。昼夜の門番とも顔見知りだし、なんとか大丈夫だろうと思っていた。が、甘かった。門番は長曾我部を見つけた瞬間大声で追い払ったのだ。「来てはいけません」と。長曾我部はすかさず聞き返した。
「何で、だ?」
少し凄みを入れていった言葉は少々利いたが、直ぐに口を閉じてしまった。
ー仕方ねぇ、少し強引にいくか・・・−
何もしてこない長曾我部を見て門番は少しほっとた。下を向いたのが駄目だった。一瞬ひゅっという音がして、門番は前を向いた。そこに長曾我部は、いなかった。それも当然だ。何故なら長曾我部は己の頭上の上、塀の上にいたのだから。
「お邪魔させてもらいまーすっと」
長曾我部はそのまま城の屋敷内に降り立つ。後ろからはまだ門番の声が聞こえるがそんな事知った事はい。長曾我部が降り立った所は毛利家の庭だった。質素だがこの季節の風物詩を使っていてなかなか良い。けれど長曾我部の趣味には合わなかったようだ。
「相変わらず地味だなぁ」
と、庭の評価をしながら目の前の縁側に足を掛けた。そのままなるべく音を立てないように細やかに走る。長曾我部は敵軍でありながら、毛利軍に入り浸っている為に城のだいたいの場所は分かっている。毛利元就の部屋は、中心にある。城の中心に毛利の部屋があると分かっていた長曾我部は大よそ兵が配置されているところも知っている。暫く音を潜めて走っていたが、相変わらず人の気配はない。しかし毛利の部屋の前に来たとき、確かに聞いた。掠れた毛利の声が。長曾我部はそのまま勢いに合わせて襖を引いた。
「毛利っ、どうかしたっ・・・」
声は途中で切れた。長曾我部が見たものは、部屋の真ん中で顔を涙で濡らしながらまるで人形の様に、静かに泣いている毛利の姿だった。長曾我部は暫く固まっていた。毛利の顔は今までになく悲しい目をしていた。まるで全てに裏切られたかのような。しかし、毛利はふいに長曾我部の方を向いた。そして驚いた様な、哀しい様な表情をした。しかしその顔は一瞬でいつもの冷徹な顔に変わった。
「何故此処にいる長曾我部。」
その声で我に帰った長曾我部は来た理由をそのままに述べた。
「単刀直入に聞くが、何で隠居なんかした?」
毛利は固く口を閉じた。そして一言。その言葉はいつも長曾我部は聞きなれているがこの時だけは何故か毛利に突き放された気分に陥った。
「貴様には関係の無い事。」
長曾我部はその途端、全身が熱くなった。気づいた時には毛利の襟首を掴んでいた。長曾我部は立っていた為、毛利を無理やり立たせる様な体制になっていた。こんな状態になったら首が苦しくなって立つものなのだが、毛利は一向に立たない。長曾我部は不審に思い、毛利に聞いてみた。もはやこの状態では聞くというより脅すような感じになっていたのだが。
「おい、なんで立たない?」
その途端、毛利は顔を顰めた。どうやら痛い所を突かれた様だ。しかしすぐに諦めた様な表情をして、言った。長曾我部は悪い予感がした。この先は聞いてはいけない。そう長曾我部の全身が語りかけて来た。しかし、もう遅かった。
「もう・・・・立てぬ。」
長曾我部の悪い予感は的中した。途端、長曾我部の力が抜けた。膝から崩れ落ちる。襟首を掴まれていた毛利はそのまま前のめりに倒れてきた。長曾我部は咄嗟に毛利の事を抱きかかえる。そして突き放した。毛利の表情は、とても哀しかった。長曾我部はとても動揺していた。それに釣られて声が震える。
「まっ・・まさか、嘘だよ、な・・・・?」
毛利の肩に手を掛ける。毛利はそれを拒まず、代わりに自分の足を見せた。
「本当だ。」
毛利の足首には痛々しい生傷が付いていた。包帯をしていながら染み出ている血液からして軽症ではない事が容易に推測できる。長曾我部は無造作に毛利の足首に付いている包帯を剥ぎ取った。そこには、長曾我部が想像していたものよりずっと酷い傷跡が付いていた。長曾我部は思わず目を逸らした。あまりにも酷くて、吐き気がしそうだった。それでも懸命に見ようとする長曾我部を見た毛利は普段聞けないような優しい口調で言った。
「見たくないなら見なければいい。」
そして包帯を巻き直して長曾我部の方を見た。その間、長曾我部は硬直していた。動くとこの現実から逃げてしまいそうで怖かった。ずっと固まっていた長曾我部は毛利が此方を見つめていたのに気づかなかった。暫くそのままどちらも動かなかった。何も動かない沈黙。その沈黙を破ったのは毛利だった。
「長曾我部、用は済んだのであろう?ならば去れ。」
毛利はその言葉と共に手を障子にかけた。ゆっくりと開かれる障子。向けられる毛利の目線。長曾我部は退くしかなかった。開けられた障子からゆっくりと外の世界へと歩く。毛利の屋敷が見えなくなった途端に空気が軽くなった。自然と怖さも無くなった。もしかしたら怖かったのは毛利なのかもしれないと、長曾我部は殆ど働かない思考の中で思ったのだった。

 長曾我部が居なくなった四国は大騒ぎだった。
「おい!アニキがいねぇ!!」
「どこいった!?」
「探せー!!!!!!!!!」
このような大騒動の時に長曾我部が帰ってきたものだから、やはり大騒ぎになった。野郎共は群れになって長曾我部に問いただした。
「「どこいってたんですか、アニキ!!!」」
長曾我部は場の風意気に圧倒されながら坦々と話始めた。
「毛利の所だ。毛利はもう確実に戦場には出ない。」
またしても野郎共は聞き返した。それを邪険に扱わず長曾我部は続けた。
「腱が・・・・切れていた。」
野郎共は驚愕の色を浮かべた。周りがざわめく。長曾我部はそれを見届けた後、自室に戻った。この時は誰も思わなかった。長曾我部が予想以上に落胆していた事、そしてこの話が思わぬ方向に転ぶ事も。

         
         (貴方の涙はとても綺麗でした)


やった〜!!!第三部ですっ☆
この回は今までの中で一番長いお話になりました!アップ遅れてすみませんm(_ _)m
次は毛利の代替わりのお話です。長曾我部側と毛利側、両方の心情を練りこんでいきたいです!!


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