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閉塞感はまだあって


薄暗い夜明かりが全身を照らす。
元就は襖に近づいてくる音に気づき身構えをした。
予想のとうり、その音は元就の部屋の前で止まった。

襖の割れ目から段々光が差し込んでくる。割れ目から太い男の指が見えた。

「何者だ。」

その言葉で元就が起きているのを気づいたのか軽い舌打ちをし、ばんっと勢い良く襖の戸を開いた。

「どうも〜違反者です。」

元就はしばし驚いた。
決して顔には出さなかったが。
なぜなら目の前に居たのは、長年仕えてきた家臣だったからだ。
元就の兵の使い方は酷い物で、使えて年月の経っていない者達はよく違反を起こしたり逃げたりするのだが、元就に長年仕えてきた僅かな家臣が今、目の前で己自身を違反者と言ったのだ。

元就は自分の計算していなかった違反に少々戸惑いながらも冷静な判断を下した。

「ほう、ならば我を殺してみせるとでもいうのか?貴様一人で?」

「そんな毛利様、私とてそんな勝算の無い争いなどしなせんよ。私はなんせ弱いもので、ちょっと人数が多くなってしまってもいいですよね?」

そこで元就は理解した。目の前の違反者はまだ隠している手を持っていると。
しかし、寝起きなためにそこまで頭が回らなかった。

元就が全てを分かった時にはもう全て遅かった。
途端に元就の首に鋭い得物が当たった。


苦無だった。
元就はすぐさま後ろを振り返った。
そこにはやはり、忍が自分の首に当てていた。

「貴様、よく忍など用意出来たものだな。賞賛に値するぞ。」

「ああ、そいつは昔毛利様が手に掛けた一人のしがない兵の息子ですよ。」

「そうか」

よく見ると忍の眼には涙が浮かばれていた。
その眼には、憎悪、哀しみ、達成感などが入り混じっていた。

多分こいつは目の前で両親を殺されたのだろう。
少し前、違反者の家族を斬殺した事がある。
そこに息子だけ居なかったが、その息子が今の忍なのだろう。
一々捨て駒の顔なんぞ覚えていないが。

元就は暫く違反者の動きを見ていたが、何もしてこない。
そろそろ苛ついてきた。
元就は怒りをそのまま言葉ごと吐き出した。


「貴様、我を殺すならば殺せばよかろう。」


言葉を吐いた瞬間、違反者は待っていたとばかりに満面の笑みを浮かべそのまま喋りだした。

「殺すなんて惨い事、私には出来ませんよ。ただちょっと毛利様を歩けなくさせるだけですよ。」

「歩けなくだと・・・・?」

元就は最初、意味が分からなかった。
違反者というものは勝算もないのに、無茶苦茶になりながら向かってくるものだとばかり思っていた。
必死に、自分を殺そうと。
しかし目の前の違反者は殺すじゃなく歩けなくさせる、と言っていた。
果たしてどういう意味なのか。

「毛利様には死ぬなんて楽な事さてたくないんですよね。死ぬ事なんてこの戦国の世、当たり前の事ですから。ですから毛利様にはこの安芸の行く末を見て貰いたいんですよ。



自分の無能さに苦痛を感じながら、ね。」

その言葉を聞いた瞬間、元就は理解した。最初から目の前の違反者の目的は殺す事ではなく、毛利の家督を移す事だったのだ。隆元はまだ初陣を迎えたばかりであるために、やはり一番近くにいる家臣が実権を握る事になる。
こいつはそれを狙っているのだ。


「もし、貴様が実権を握るとする。が、しかし、貴様は何をしようとするのだ?」

「ああ、そうですね。例えば・・・・・・そうですね、毛利家を壊滅させます。」


「なっ・・・・・・・」


元就は驚愕した。
安芸を守っている毛利家が無くなれば安芸は堕落の道を歩む事になる。
もしかしたらそれが狙いなのかもしれないが。
話終わったのか違反者はいきなり真剣な顔になり、決断を下した。


「おい、やれ。」

「!?」

その瞬間足首に強烈な痛みが走った。
元就の動きを封じていた忍がもう片方の手に懐刀を取り出し元就の足首に突き刺したのだ。
ぐちゃぐちゃと肉を抉る音が聞こえる。
そして忍は一気に懐刀を横に動かし元就の足首を切り裂いた。

「ぐがっあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!」

そして続けてもう片方の足も同じ様に、抉り、切り裂く。
忍は眼に涙を溜めながら、更に力を入れて来る。
零れてくる涙さえも元就には苦痛でしかなかった。
裂かれた肉の間に忍の涙が入ってくる。
まるで元就の今までの悪行を荒い流すかの様に。
暫く続いていた行為の間に元就の意識は離れていった。
眼の前の違反者を一目見た。
掠れながら見た違反者の顔は、醜く笑っていた。
意識が薄れていく中、元就は確実に思った。   

もしかしたら、安芸の繁栄を願っているのは我だけかもしれない。






日輪の日差しで眼が覚めた。
いつもは日輪を拝むのだが今はそんな気にはなれなかった。
昨日の違反は足首の痛みが夢ではないと物語っていた。

所々飛び散る血。
乾いた血からは昨日の惨さが分かった。
信じたくなかった。
自分の予想外の違反、全てが嘘だと言いたかった。
元就は痛む足を両手で包みながら蹲った。ふと、後ろから声がした。



「            」



悪夢はまだ始まったばかりだ。
                




   (閉塞感はまだあった)


終わりますた〜、ふー。プチ予告→続きます☆予想では7部作くらいになると思います。ここまで読ん
でくださった方々、本当にありがとうございます!!凄い暗い話になってしまったけれど、最後は良い
感じに仕上げたいと思います!

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