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魔法骨董店。
普通過ぎる日常。



 カラン……


「いらっしゃいま山本ぉ?!」
「よぅツナ! 遊びに来たぜ♪」
「何しに来やがった野球バカ!!」





 今「遊びに来た」って言ったばかりだよ獄寺君。




 心裡で素早くツッコミを入れる綱吉。実を言うと表情にも出てしまっているのだがそこは無視しよう。

 獄寺に続く形となって店内に足を踏み入れたのは、綱吉の親友兼獄寺の永遠の敵(獄寺談)兼ボンゴレ魔法骨董店の御得意さんである、山本武だった。
 サラサラと軽くなびく髪に、さわやかな笑顔。そして、(服の上からは分かりにくいが)しっかりとした体つき。
 その全貌が彼の「スポーツマンらしさ」を物語っていた。


「ん? 何だ獄寺、帰って来てたのか!」
「ったりめぇだ!! 俺を誰だと思ってやがる! 十代目の右う─────」
「ん? 獄寺は獄寺だろ?」


 正直に浮上して来た疑問を、獄寺を遮る形で問う山本。
 悪意が無かったとは言え遮られた事がよほど癪に障ったのか、獄寺は山本の胸ぐらを掴み上げた。


「ちょおおぉ?! ご、獄寺君! お店で喧嘩しないで!!」
「!! じゅ、十代目が、おっしゃるんなら……」


 と言いつつ、またもや山本を睨みつける獄寺。
 だが、殺気を向けられているなどと言う危機感は天然鈍感野球馬鹿には皆無、ただ「ん?」と不思議そうに首を傾げるだけだった。

 いつも通り過ぎるハチャメチャな日常に、こらえきれず「はぁ…」とため息を漏らす綱吉。
 それは、誰の耳にも拾われず、ちりにもならずに空中へと消えて行った。


「相変わらず仲いいな、お前ら」
「ん? 小僧じゃねぇか! 元気してたか?」
「あぁ、まぁな」
「仲良くなんか有りませんリボーンさん!」







 一人だけ話題ズレてるよ獄寺くーん!!




 心の中で絶叫をあげる綱吉だが、それが誰かに聞こえる筈も無く。いや、厳密に言えばリボーンは読心術が使えるらしいが使っていたとしても綱吉のツッコミを口に出す事は永遠に無いだろう。

 とにかく、いつも通りの日常が繰り広げられるボンゴレ魔法骨董店。

 ちなみに、今の所強い望み・願いを持っていない獄寺や山本がどうして店の中に安易に入れるかと言うと。
 リボーンが、持ち前の魔力で店の透視魔法の魔法陣を少しやりくりしたからである。
 それにより、綱吉が友人や知り合いと認識した者達は常日頃からこの店が視界に入っているのだ。
 全く持って魔法と言う物は、便利極まりない物である。




 ………ん? いつも通り……?




 ふと、綱吉が違和感を感じた。
 いつもの日常にしては、何かが足りない気がした。
 そう、決定的な何かが…………。



 ダダダダダダダダダダダダダダダダダ……。



 突然聞こえて来た爆音にも聞こえる足音に、その場の全員が動きを止め、耳を澄ませる。




 あぁああ、やっぱり来た……!!




 内心落ち込む綱吉。
 昔から彼は直感が鋭い所があった気もしなくはないが、毎日これほど予感が当たってがっかりする事は無い。
 まぁ、たまにこの足音は幸せを運んでくれるのだが、今日もそうとは限らない。
 ので。
 あまり期待しない様にした。



 ダダダダダダダダダダダダダダダダッ、ガチャッッッ






「極限に来てやったぞぉ、沢田ぁあ!!!」







 また変な人、キタァァアアア!!


 どうしても己の絶望感を押さえきれなかった綱吉は、しゃがんで頭を抱え込む事にした。
 その所為で自分の被っているとんがり帽子の鍔がクシャクシャになっているのだが、そんな事に彼が気付く筈も無い。

 この度、入って来たのは自称『ライオンパンチニスト』、ボクサーの笹川了平である。
 自他共に認める『熱血野郎』で、来る場所行く場所極限極限と、極限に五月蝿い妹思いの二人兄妹兄だ。
 本当は全くない筈の綱吉のボクシングの才能を見込み、良くボンゴレ魔法骨董店に押し売りに来る、これもまぁ一種の『お客さん』だろう。


「沢田ぁ、一緒にボクシングの星を目指そうではないかぁ!!」
「目指しませんし、そんな星ありませぇえん!!!」


 必死に提案を謝絶する綱吉だが、それに効果が全くない事は毎日の様に繰り返されるこの会話で分かりきっていた。
 だがしかし、それ以外に言う事が無いのである。
 元々、自分の事を認めて誘ってくれているのだ。
 そんな優しさのこもった誘いを、綱吉は根っから根本否定してしまうほど非情な人間ではないし、そんな人間になろうとしても出来なかった。
 綱吉は、根っからの『お人好し』なのである。


「おま、芝生頭!! 十代目を困らせてんじゃねぇ!!」
「よっす、先輩!」
「おう、山本に獄寺ではないか!」


 芝生頭の登場に一気に食らいつく獄寺に、のんきに挨拶をしている山本。
 日常だ。日常過ぎた。




 しかもお兄さん、毎回来るタイミング同じなんだよなぁ……。




 内心そんな事を考えながら、店内に飾ってある古時計の一つに目をやる綱吉。その針がさすのは、午後零時、つまりは正午。
 毎度毎度お昼の十二時に来る、太陽の様に熱く、優しい人。
 綱吉はそれが少し迷惑でもあったが、嬉しい気持ちの方が遥かに勝っていた。
 毎日毎日、自分に合いに来てくれるのだ。
 嬉しくて、涙が出そうだった。


「……あ、そう言えばお兄さん」
「ん? どうした沢田!」
「今日は、その……京子ちゃんは一緒ではないんですか?」
「あぁ、京子は今日、委員会の仕事が有るらしくてな!」
「そ、そうですか……」


 内心一瞬、「残念だなぁ…」と思う綱吉。
 京子ちゃんとは、了平の実の妹であり綱吉の思い人、笹川京子ちゃんである。
 (実質上では)綱吉が通っている近くの魔法学校でのクラスメイトで、山本が了平の事を「先輩」と読んでいるのも、学校で了平が彼らの先輩に当たる人物だからだ。
 京子ちゃんは学校屈指の美少女で、週に三回は告白され、それをいつも申し訳なさそうに断っていると言う、いわば学園のマドンナなのだ。

 『思いは届かなくても、思い続ける事は別に良いだろう』。
 『こんな駄目な俺が、京子ちゃんと釣り合う筈が無い』。
 自分が誰よりダメダメだと言う事を自覚して言う綱吉は、いつも心の奥底でそう思い続けていた。

 たまに、了平が京子を連れて店を訪れるのだが、今日はその日じゃなかったらしい。

 いつも通りの日常で感じる、いつも通りの小さな失望に、綱吉は思わずこの普通過ぎる日常に頬を緩ませた。





「それでだな沢田! ボクシングの件なのだが──────」
「いやだからやりませんて!」
「いや、お前にはボクシングの才能が有るのだ! せめて一度だけでもやってみんか?!」
「だ、だから…!」


 そろそろ本気で困って来た綱吉。

 瞬間。


《助けてやろうか、十代目店主》
「あ……」


 自分に良く似た、キーがいくつか低い声が、脳裏に響き渡った。




 あ、いや、大丈夫だよ、橙(とう)……。




《だが、随分と困っている様に見えるぞ、デーチモ》




 だ、だけどさ………。




《いつももそうしてるだろう。ここは俺に任せろ》


 それでもなお、粘る綱吉。




 で、でも一度ぐらいは自分でなんとかしなきゃ…!




《困っているのは事実だろう。別に、お前が解決方法を知らなくても俺が知ってるんだ。心配するな》




 ううぅ…………。




《大丈夫だ、任せろデーチモ》




 わかったよ、もう………。
















 瞬間、綱吉の額に橙色の炎が灯った。







(お兄さんに変な事しないでよ、橙…)
(大丈夫だ、任せておけ)
(!! あの方がいらっしゃったか……)
(お、いつものおもしれぇ奴だな♪)
(ふむ………では橙に申し込んでみようではないか)
(ソウカ、キコエテイルノカ……)


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あきゅろす。
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