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雪、溶ける。
父親、来る!



「ぅっ………?」


小さくうなり声をあげて、俺、沢田綱吉は薄く目を開く。
窓から差し込む日差しが、目に刺す様にまぶしい。
…………なんだ、もう朝か。


「ふぁあ〜………」


伸びをしながら、暖かい布団の中にずっと入っていたい事を願う体を無理矢理引きずり出す。
窓は閉まっているけど、チュンチュンッという小鳥のさえずり声が、部屋の中からでも聞こえた。

今日も補修だ、気が重い。
基本的に補講生である俺は、ほぼ毎日の放課後や午前中を学校の補習質で過ごしていた。
せめて、補修仲間である山本こと山本武がいてくれるから楽だ、一人だったら耐えかねる。




まぁでも、山本は勉強さえすれば身に付くんだよなぁ………




今までも、そしてこれからも続くであろう山本の野球馬鹿っぷりは一級品だ。
野球に熱中し過ぎて勉強をほったらかし、その所為で補修送りとなっている。
俺とは全く別種類の『問題児』だ。

まぁとにかく、今日は日曜だと言うのに補修がある。実に憂鬱だ。
が、しかし、時間と言う物が待ってくれる筈も無く、壁にかけられた時計の秒針はチクタクチクタクと時を刻んで行く。
その時刻、七時三十分。




今日はちょっと早めに起きれたな……




と思い、のろのろと準備を開始する。
今日もいつも通り、ダメダメで、平穏安息な日を送れると信じて。

階段をゆっくり下りて行くと、慣れてしまった、本当は物凄く慣れてしまいたくなかった近所迷惑ノイズが聞こえて来た。


「ガハハハハハハ!!このチキンはランボさんのなんだもんね!!」
「ひとりじめふか!みんなでたべる!」


ホンバーヘッドで牛柄のつなぎを着たランボと、おさげでチャイナ服を着用しているイーピンが食物を巡って鬼ごっこをするのは毎朝の定番、日常茶飯事だ。
そんな二人をスルーして、リビングに顔を出す。


「おはよー……ってんなぁー?!!何この料理!!」
「あらぁ、ツーくんおはよう♪」


俺の声を聞きつけて、台所から包丁を持ったままのニッコニコな母さんが出迎えてくれる。
だけど、俺の意識はダイニングテーブルの上に置かれた『料理』に釘付けだった。
元々大きくって空きスペースも多かった我が家のテーブルも、今や居候ばかりのこの家では丁度いいサイズと化していた。
そして、その『普通の家庭にしては結構大きなテーブル』の上にはその全てを覆い尽くすほど大量の『料理』が置かれていた。

純日本人である我が家(先祖の事は知らないが取り合えず祖父は日本人だった)の朝ご飯は、基本的にジャパニーズスタイルで済まされる。
一人一人にそれぞれの白米やら鯖の塩焼きやらが配られるのだ。
だが今日の朝飯は違うらしい、テーブルには大きなお皿が十何枚も置かれており、フゥ太もビアンキも、それぞれ思い思いに好きな物を手に取って食べている。
例えるなら、高級レストランやホテルの朝食にされる、「あれ」だ。
えー、なんだっけか………?
……………まぁいいか。

とにかく、今テーブルの一面を覆い尽くす大量のごちそう。
こ、これは一体……?!


「か、母さん何この料理?!!」
「あぁこれ?あのね、お父さん、帰ってくるんですって!」
「えぇッ?!」
「二年ぶりに!」
「えええええぇぇぇぇええええぇぇぇぇぇぇーーーーっっっ??!!!!」


驚いた、いや、本当に。
と、父さんが…………帰ってくる?!!


「そんなに驚く事なの?」
「だ、だって父さん………蒸発したんでしょ?!」


ビアンキの疑問に答えたよりも、母さんに疑問をぶつける形で叫ぶ。

だ、だって母さん昔、「お父さんはね、消えて、お星様になったの」とか何とか言ってたじゃん!


「あぁあれ?あれはお父さんが、『その方がロマンチックだろ?』………って♪」
「納得出来るかぁああ!!!!!」


うっとりする様に手を組んで、うっとりする様に斜め上を見上げる母さんにいよいよ大声で突っ込んでしまった。
ロマンチックって……!!ロマンチックって…!!!
驚きのあまり、その単語を頭の中で何回も繰り返す。

何回往復させただろうか。
突如『ロマンチック』の列の中に、『現在時刻』と言う単語が飛び込んで来た。
慌てて時計に目をやると、もう既に七時五十分。
やばい、遅刻する…!!!


「い、行ってきます!!」


慌てて椅子の背の部分にかけてあったカバンを取っつかんで、リビングを駆け出し、玄関のドアをこじ開け、外に飛び出す。
こんなに遅れてしまったにもかかわらず、いつも通り山本と獄寺君が玄関で並んで待ってくれていた。


「十代目、おはようございます!」
「あ、うんおはよう!ごめんね、こんなに遅れて!」
「今日も晴天!絶好の補修日和だな!」
「あ、うん、そうだね、あはははは……」


いやいやそうじゃない、そんな日和はいらない。
何が補修日和だ、嫌になるよ。

心の中で突っ込みながら、言い合いを始めていた二人と一緒に歩き出す。
獄寺君は頭脳明晰だから補修なんて受けてない。だけど、何時も何も言わずに一緒に来てくれてる。見てくれは不良じみてるけど、本当は物凄く優しいんだ。
こんなに優しい仲間が出来た俺って、ほんとラッキーだよな………。
そう思いながら、二人の話を聞く。
こんな日々が、ずっと続けば良い。こんな、楽しい日々が。




『これが、沢田綱吉、か………』



……誰かが俺たちの事を見ていたなんて微塵も気付かず、学校への道のりを三人、時間も気にせずカメペースで歩いた。







(…父さん、か………)
(何も無ければ良いけど………)
(家光…………あいつ、来るのか)


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