雪、溶ける。 朝、来る! 「ぅん……?…………ぁ、もう朝なのか……」 まぶたを閉じていても分かった部屋のまぶしさで目が覚めた。 外の明りにゆっくりと目を慣らしながら、徐々にそれを開いて行く。 外でさえずり合っている小鳥達の声は、昨日の朝の事を連想させた。 ──────………ん……?昨日………? 何か大切な事を忘れている様な気がしたが、きっと気のせいだろう。 俺は軽く伸びをして、ベッドから這い出────────── ギュッ…… 「……?」 ───────そうとしたけど左手に違和感を感じたため一瞬で自分の行動を停止させた。 そして、すぐにそれが、誰かのてである事に気付く。そしてこの勘が肝心な時(テストの時とか体育の時とか、後テストの時とかその他諸々)に働かない事を呪った。 機械の様にギジギジいい出しそうな感じの動きでゆっくりと自分の左手のあり方を確認するため、振り向いた。 そしてそこにいたのは……────────── 『すぅ………』 「ん゛な゛ぁぁあああああああ!!!!!???」 ───────昨日父さんと一緒に帰って来たばかりの俺の妹、セツこと、雪菜だった。 なんで、え、どう言う事……!!? 混乱の渦に巻き込まれる俺は、はたから見ればただの不審者だろう。 「お前、そこで何をしている!」と警備員さんに懐中電灯の光を向けられる準備は万端とは言えない。 …………と言うか今は朝だ、懐中電灯は必要ない。 と言うかそんな事はどうでも良い。 とにもかくにも今俺、沢田綱吉は、もしや人生最大かも知れない危機とご対面していた。 人生最大の危機さんこんにちは、二度と来ないでください。 『んぅ……?』 「…ぁ…………」 起こしてしまったのだろうか、と言うかほぼ確実にそうだ。 眠そうに薄ぅく目を開けるセツ。とても眠そうだ、本当に眠そうだ。 ゆっくりと目をこすりながらベッドに片手をついて起き上がるセツ。 『…………どこ……?』 「第一声がッ!!?」 低血圧なのかな、セツて。ほら、低血圧な人って、寝起きが悪いって言うじゃないか。 「ちょっ、セツ覚えてないの?ここ、俺の部屋だよ?」 『部屋………兄さん…?』 あ、俺の事は分かるのね。 どうやら、俺の事は認識出来るらしい。兄だからか、それとも偶然か。 まぁとにかく…………… 「ほら起きてっ、朝だよ!」 『朝………』 俺の言葉を応唱するばかりのセツ。本当に起きているのだろうか。 セツの方をまじまじと見ると、少しは目が覚めて来たらしい、まぶたが少しずつ上がって来ている。 そしてとうとう、昨日再会した時と同じ様に、大きな目を俺に向けた。 「ぁ、あの……セツ…?」 『……おはようっ!』 そう言って、ニコッと微笑むセツ。お、ここに天使が居るぞ。← さて、セツも目を覚ました事だし……… 「…セツ、支度して、一緒に一階に降りよう?」 『あ、うん!』 そう言って、ベッドから飛び出すセツ。 しかもご丁寧に布団を整えてくれている。家庭的で細かい所は母さんから受け継いだのだろうか。 その後俺たちは着替えやら支度やらをして、階段を並んで一緒に下りた。俺は取りあえず制服、セツは私服だ。 「あらぁ、ツーくんセツちゃん、起きてたの。おはよう♪」 「あ、うん、おはよう母さん」 『おはようお母さんっ!』 ダイニングに入ると、真っ先に目に入ったのは台所で包丁を持って振り返り、朝の挨拶をしてくれる母さん。いつも思うけど、包丁が危なっかしい、とても危なっかしい。ちょっとしたホラーだ。 ちょっとどもりながら挨拶をしかえす俺と、小首を傾げる様にしながら満面の笑みを見せるセツ。 何故俺とはこんなにも違うのだろうか。兄妹なのに。 「ご飯もうすぐ出来るから、お父さんとお話でもして来なさいな」 「と、父さんと…?」 『お父さん、縁側に居る?』 「えぇ」 待て待て、嫌な予感しかしない。 あの家に帰ったらすぐ爆睡する様なグータラ親父と話す話題が全く、一切見つからない、そして金輪際見つけたくもない。 がしかし、そうも言っていられないようだ。 セツが、さっき母さんに見せたのと同じ満面の笑みで、縁側に座って子供達とじゃれている父さんの元へ駆け寄っていた。 い、何時の間に……!? なんと言うか、まぁ、さすがは妹…? 久しぶりに会ったばかりだけど、なんだか納得してしまった。何故だ。 そんな事を頭の中で考えながら、俺はセツを追って縁側へ向かった。 『おはよう、お父さん!』 「おう、ツナに雪菜じゃねぇか!良く眠れたか?」 「お、おはよう父さん……」 良く眠れたも何もぐっすりでしたよ、えぇ。 そして貴方も豪快に寝ていましたよ父さん。 「それにしてもツナぁ、お前父さんが帰って来ても寝てばっかりだったんだもん、父さんさけられてるのかと思ってブロークンハートだったぞぉ…」 「寝てばっかりだったのはどっちだよ!!!」 なんなんだこと親父は、こんな年して「だもん」って。「ブロークンハート」て…!! そんな父は両手の人差し指を会わせては離し、またくっつけては離し、と言う無限ループを指で実施させていた。 なんなんだこの極限ヘタレ親父は、いや、俺もか。 と言う事は俺のこのヘタレ遺伝子はこの人から伝わったのか、嫌になる。 こんな親父、誰でもさけると思うのは俺だけだろうか。 『まぁまぁ兄さん…』 セツが隣で苦笑している。 全く本当になんなんだこの父親は。 急に出て行くわ突然帰ってくるわ、もう訳が分からない。 本当に、俺たちの父親はいい加減な人だ。 (兄さん、楽しそうだな………) (はぁもう、調子狂うなぁ…………) (ツナ………お前にはこの試練、頑張ってもらうしかないんだ…) [←PREVIOUS][NEXT→] [戻る] |