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雪、溶ける。
寝場所、来る?



「……おい雪菜、お前、どこで寝るつもりだ?」
「はい?」


突然リボーンさんが口にした言葉を、私は一瞬理解出来ずに聞き返す。
すると、隣にいた兄さんからも声が上がった。


「あそっか、今うち居候だらけだからもうスペースないや………」


居候とはきっとフゥ太くんやイーピンちゃん、ランボ君、ピアンキさんの事だろう。
それって、居候って言うより…………………


『…………家族……』
「えっ?セツなんか言った?」
『え?いや、何でも無い!』


慌てて手のひらを顔の前でブンブン振る。
隠す必要は微塵も無かったのだが、何故だか言いづらかったのだ。

……………話題がそれた、軌道を戻そう。
この家には多くの人間が住んでいて、寝る場所は残っていない。
一緒にベッドで寝るとなっても、兄さんはきっと嫌がるだろう。

そう考えると少し気分が沈むが、しょうがない事だ。
小さい頃には何ともなかったとは言え、さすがに異性と寝るとなれば兄さんも首を縦には振らないだろう。
だとしたら、答えは一つ。


『……あの私、床で寝ますよ?』
「「は?」」


見事に、二人の声が重なった。
この二人、きっとさぞかし気が合うのだろう。(違)

いや、だがそんなに驚く事だろうか。
ただ、『床で寝る』と言っただけなのに。
ここまで驚くとは心外だ、想定外だ。

私だって、床で寝た事あるんだよ……!?
長期任務とかで、森の土の上を寝転がった時だってあるんだよ…!?
女の子だからといって、そこまでか弱い訳でもないんだよ!?

兄さん達は私を大和撫子だと思っているのだろうか。
いやいや、そんな高い身分など持ち合わせていない、ただの女子中学生だ、一般人……………ではないが………い、一般人だ…!!!
床で寝るくらい、雑作もな────────


「……ツナ、お前雪菜と一緒にベッドで寝ろ」
「『は/はい?』」


今度は私と兄さんがシンクロした。
たまたま波動が合わさったのだろうか……?

いや待て、問題はそこじゃあ無い。
リボーンさんは今、なんと言った。
「一緒に寝ろ」、と言った。

…………一緒に…………………
…………イッショニ……………………
…………いっしょに………………………………?

兄さんが嫌がるだろうと思い、一番最初に除外していた案がリボーンさんによって掘り起こされた。
その言葉が、漢字で、カタカナで、ひらがなで、頭の中をたゆたう。疑問符のおまけ付きで。

だが次の瞬間、その三つ、いや四つのシルエットが漂っていた所為で作られてしまった思考世界は、兄さんの大声で一瞬にしてぶち壊された。


「えぇっ、ベッドで一緒にって、えぇええ!!!??」
「グダグダ言ってねぇで寝ろ。寝不足で勉強に支障が出たらドタマカチ割るぞ」




チャキッ




「ぅわぁああっ!!分かった、分かったから銃しまってぇえ!!!」
「分かりゃ良いんだ」
『…………』


一瞬にして取り出され(正確に言えば、レオンが形状変化した)自分に向けられた緑色の銃口に、兄さんは風の早さで降参する。両手を天高く、ピシッと伸ばして。
リボーンさんが撃つ筈も無いのに負けを認めている兄さんがどうしようもなく可笑しかった。
そしてついには────────


『ぷッ……あははははは!』


──────吹き出してしまった。

突然笑いだした所為で、兄さんとリボーンさんの視線が一瞬でこちらを向く。なんとも素晴らしいシンクロ率だ。




雪菜/セツが…………壊れた…?




二人とも同じ事を思っていた事を、私は知らない。


「えッ、ちょっ、セツ!?だ、大丈夫…!!?」
『だ、大丈夫……』


吹き出した後は随分と爆笑してしまい、目にたまった涙を拭いながら兄さんの返事をした。
そして、話題が随分それてしまっていた事にワンテンポ遅れて気付く。
そうだ、とにかく今は、兄さん達に迷惑の掛からない解決法を見出ださなくては。


『私、大丈夫だよ。床で寝るから───────』
「駄目だよ!!」
『………へ?』


私の言葉を遮り突然兄さんが発した大声は、部屋に鳴り響く形で私の耳にも届いた。
ただでさえ兄さんの部屋は物が少ないから、声が反響しやすいのだろう。

が、しかし。
今、兄さんは私の言葉を遮って、「駄目」と言った。
だけど、何が駄目なのだろうか。


「か、風邪引いちゃうから!一緒に寝よう!!」
『え…?でも、それじゃあ兄さんが……』
「そんな事は良いから!!俺、別にい、嫌じゃ……無い、し………」


その言葉が、一番意外だった。
嫌じゃ、無い……?

根本から否定していた兄さんの賛成は、今ので完璧に、完全に覆され、ひっくり返された。
その事で私が受けた衝撃は、兄さんの顔が赤みを注していた事に気付かせないほど、大きかった。


『……いい、の……?』
「へ?」
『一緒に寝ても、気にしない…?』
「え?そんな事、気にしてないよ!」


そう言ってみせてくれた満面の笑み。
昔から、変わらない。
懐かしさに、涙があふれそうだった。いや、もう既に涙ぐんでいたかも知れない。
だけど、どうしても、嬉しかったんだ。


『……ありがとう…!!』
「え!?あ、いやっそのっ、お礼を言われるほどじゃ…!」


照れながら両手を顔の前でブンブン振る兄さん。さっきの私の動きに、そっくりだ。


「んなにデレてねぇでさっさと寝やがれ」




ゲシッ




「ぁだッ!!?」
『兄さん!!?リ、リボーンさんやり過ぎですよ!』
「心配すんな雪菜。こいつはこうもしないと覚えねぇからな」
「んな理由でいちいち人を蹴るなよ!!」
『まぁまぁ兄さんも落ち着いて……』
「そうだぞ。小さい事をいちいち気にしてんじゃねぇ」
「誰の所為だ誰の!!!」
「だってだって────────」
「キャラ変えてごまかすな!!!!」


結局その日、三人(いや、基本的にはリボーンさんと兄さんが口喧嘩をしていただけだった)で言い合いっこをして、寝たのは深夜を回ってからだった。







(ったく、リボーンの奴………)
(楽しくなりそうだな…………)
(雪菜の奴、ちょっとは馴染んだみたいだな……)


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あきゅろす。
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