雪、溶ける。
招かれざる客、来る。
修行の第二段階が終了し、オレたちは一度家に帰る為に山を下りた。
そして、山を下りている途中で、
───セツが、倒れた。
+++ +++ +++
少し急な山道を降りている途中だった。
「……大丈夫か、雪菜」
『はい、大丈夫ですよ?』
笑顔でリボーンの問いに答えるセツ。山道が急だから、足下を心配しているのだろうか。
セツの返答に、リボーンは一瞬だけ腑に落ちない様な表情を見せながらも、すぐに「そうか」と明るい声音で相づちを打った。
「今日はありがとう、バジルくん」
「いえ、拙者にはこれぐらいしか出来ないので」
またまたご謙遜を。
相変わらずなバジルくんに内心苦笑しながら、前でリボーンと並んで歩いているセツに再び視線を向けた。
その時だった。
フラリ、
『ぁ……』
「セツ?!」
「雪菜殿!」
セツの体が一瞬横に傾いたかと思うと、ゆっくりとその体はバランスを失くし、前に向かって倒れて行く。
バジルくんが咄嗟に飛び出してセツを支えてくれるけど、反応がない。
「……気を失ってるな」
「嘘、セツ! ねぇってば!」
冷や汗が頬を伝って流れ落ちるのが分かる。
さっきまで笑って、普通に歩いてたのに。
「急ぐぞ、ダメツナ」
「うん……!!」
バジルくんが抱えていたセツを受け取り、背中にしょって三人で走り出す。
耳元で聞こえるセツの荒い息づかいが、余計にオレの不安を煽った。
+++ +++ +++
家に到着して勢いよく玄関の扉を開くと、そこには何やら作業服を着て、安全第一とプリントされたヘルメットを被った父さんが靴を履いていた。何処かに出かけでもするのだろうか。
すると父さんは靴紐から顔を上げ、こちらを見た。
そしてその目がゆっくりと見開かれる。
「……どうしたんだ」
きっと、セツの事だろう。
そりゃそうだ、出かけようとしたらしい矢先に気を失った自分の娘が運び込まれたんだから。
父さんに問いにリボーンは一瞬だけセツを見やって、すぐにまた目の前の父さんの目を向けた。
「……軽い貧血だ」
「……そうか」
リボーンはボルサリーノの縁を少し持ち上げ、対して父さんはヘルメットをグッと目深に被り直した。
……ていうか、どこに出かけようとしてたんだろう。
「父さん、一体どこに?」
「あぁ……ちょっとな。招かれざる客が、思ったより早く来ちまったらしい」
「! 本当か、家光」
オレは状況が理解出来ぬまま、リボーンと父さんの間で会話が成り立って行く。
「オレは他の守護者達にこの情報を伝えに行く。手伝ってくれ、バジル」
「はい、親方様」
「……はい?」
え、バジルくん今親方様って言った?
思わず目を見開き、父さんを指差してバジルくんを見る。
「親方様……?」
「はい」
「親方、様……?」
父さんにも聞いてみると、あろう事か笑いながら自分を指差して「親方様」と誇らしげに言い放つ。
ちょっと待てよ嘘でしょー?!
「そんな……だって……」
脱力して背中のセツを一瞬落としそうになってしまう。
親方様って聞いていやな親父ばっかり想像してたオレの立場って……いやまぁ父さんも十分いやな親父なんだけどさ……。
『ぅ……』
「! セツ、目が覚めた?」
『兄さん……家?』
「うん、そう」
立てる? と確認してからゆっくりとセツを地面に下ろす。さっきに比べて随分と顔色も良くなっていた。
靴を履き終えたらしい父さんはセツの前にやって来ると、一言だけ「来たぞ」と呟いてバジルくんをつれて出て行ってしまった。
『……分かった』
玄関のドアが閉まる直前にセツが呟いた言葉は、恐らく父さんに向けられた物だろう。
それを見届けて、リボーンは帽子の縁を少しだけ下げて口を開いた。
「早く行くぞ、ツナ。雷の守護者が危ないんだ」
「! うん……。セツ、大丈夫?」
『うん、もう大分よくなったよ。私もついて行く』
微笑みながら言うセツにまたもや不安がわく。
また、無理してたらどうしよう。また、倒れちゃったらどうしよう。
そんなオレの様子に気付いたのか、セツは一瞬驚いた様な表情を見せながらもすぐに困った様に眉をひそめて笑った。
『大丈夫だよ、兄さん。今度は嘘つかない』
「……本当?」
『……うん』
そう言ってセツは玄関の扉を開いた。
『行こう? ボスなんだから、兄さんが守らなきゃ』
「うん」
「早くしろ、ダメツナ」
「分かってるよ!」
踵を返して、さっき入って来たばかりの玄関を出た。
+++ +++ +++
雪菜が倒れた。
だから、無理をするなといったんだ。
「……どうしたんだ」
「軽い貧血だ」
これは嘘だ。雪菜が倒れたのは、きっと例のあれの所為だろう。
だが、家光に言うなと頼まれた以上、それを貫かないといけない。
───こいつは、随分もろいからな。
(雷の守護者って……誰?)
(ランボくん、今、一体どこに……!)
(誰かが守ってやらねぇとな)
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