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雪、溶ける。
第二段階、来る!
『スパーリング、ですか……』
「あぁ。今のツナにたりねぇのは、死ぬ気のコントロールだからな」
『……やっぱり、あの技を?』
「……そのつもりだ」
『そうですか』

 今、私の目の前では死ぬ気になった兄さん、そして───『親方様』とロマーリオさんの薬草で随分回復したバジルさんが互いに拳を交えていた。
 相変わらず兄さんの死ぬ気モードは荒々しく、それに対してバジルさんは凄く落ち着いている。実践慣れしている猛者の証拠だ。
 すると、兄さんが雄叫びをあげながら繰り出した拳をバジルさんが受け止める。

「死ぬ気になり過ぎです、沢田殿」
「!」
「本当の死ぬ気になるのは───」

 そう言って、兄さんの腕を離し素早く構える。

「───一瞬だけで良いんです!」

 ごっ、と擬音が聞こえてきそうな勢いでバジルさんの肘が兄さんの腹部にヒットし、兄さんは勢いで後ろに会った崖に向かって一直線に飛んで行く。
 流石に少しひやっとしたが、兄さんなら多分大丈夫だろう。

「……やはり、バジルはツナより一枚も二枚も上手だな。流石お前が鍛えただけは有るぞ───家光」
「そりゃ厳しく育てて来たもん」
『もんって……ちなみにどんな修行法を?』

 若い女子高生の様な喋り方をするお父さんに思わず苦笑しながら、少し疑問になった事を問う。
 それを聞いてお父さんは、特に痒くはないであろう頬を描きながら考える様な素振りを見せた。

「んー、そう言えば一度熊が大量発生した森の中に一週間放り込んだ事があったなぁ」
『……バジルさん、頑張ったね』

 どうしようもなく同情しながら、いつの間にかとなりにいたお父さんから二人の方へと視線を戻す。

 兄さんが長時間し抜きモードを維持出来ないのは、『常に』死ぬ気になってしまっているから。死ぬ気をコントロールする事が出来れば、長時間に渡って戦える様になる筈。
 だから、既にそれが出来ているバジルさんと戦わせているんだ。
 リボーンさんは一件デタラメにただ試練を与え続けている様に見えるけど、内側では誰も予想だにしていない計算が幾重にも施されている。
 これだから、敵わない。



   +++ +++ +++



『二人とも、お疲れ様です』
「あ、ありがとう」
「いえ、拙者にはこれぐらいしか出来ないので……」

 三分休憩に入ったオレたちに水を持って来てくれたセツにお礼を言う。同じくオレとは色違いの水筒を手渡されたバジルくんなんて謙遜していた。オレなんかより全然強いんだから、そんな気を使わなくて良いのに……。

『どう? 死ぬ気のコントロールは身に付きそう?』
「え? う〜ん、どうかなぁ……」
『ファイトだよ、兄さん』
「う、……うん」

 苦笑して、少し迷ってから本当に頷いて良いのかと思いながらも頭を縦に振る。
 そんなオレを見てセツは微笑んでから、「じゃあ頑張って!」とオレたち二人同時にハイタッチをしてからリボーンがいた方へと戻って行った。



   +++ +++ +++



 私が水筒に水を汲んで戻ってくると、真っ先にバジルさんとリボーンさんが私の前へやって来た。

「……雪菜殿、お体の方は大丈夫なのですか?」
『はい、大丈夫ですよ?』

 少し疑問そうに返事をする。
 ここで偽らないと、また心配させるかも知れない。

 バジルさんとはイタリアの方でも良くしてもらっていた。同じ年齢だった唯一の人と言うのもあったし、なにより彼は私に優しくしてくれていた。

「ですが、まだ治療も程々にこちらに向かわれたのでしょう? いつまた体調を崩すか……」
『大丈夫ですって! ちゃんと切りのいい所で来ましたし、それにほぼ完治してますから!』
「しかし……」
「バジル、あまり心配してやるな」

 まだ何か言いたそうだったバジルさんを、リボーンさんが制止する。

「雪菜、体調が悪くなったらすぐに言って、先に帰れ。家光には黙っておく」
『……分かりました』

 お父さんには内緒だと言う事で納得する。
 この事がお父さんに知れたら、またイタリアに送り返されてしまう。

 イタリアから来るときだって、医療スタッフの皆さんに口裏を合わせてもらって、お父さんには治療は取りあえず完了したと嘘をついた。それがバレたら、もうそれこそどうしようもない。
 だから、リボーンさんの気遣いは本当にありがたかった。

『ありがとうございます、リボーンさん。バジルさんも、大丈夫ですから』
「分かりました……」
「当然だぞ。ファミリーだからな」

 そう言って、リボーンさんはニヒルな笑みをこぼした。



   +++ +++ +++



 二色の炎が交差し、地面に次々と小さなクレーターを生み出して行く。
 兄さんとバジルさんの修行が再開し、お父さんもさっきは何処かに隠れていたのか、兄さんが気付かないのを良い事にまた出て来て観戦していた。

 そしてバジルさんの拳や蹴りが次々と決まり、これで最後かと思われた一撃が繰り出された、その時だった。

「「……!!」」

 ガッ、と大きな音がして、兄さんとバジルさんの額がぶつかり合う。二人はそのまま後ろに倒れ、両者戦闘不能となった。
 思わず感心して、くすりと笑ってしまった。
 バジルさんが最後のパンチを繰り出して、兄さんに当たったその瞬間。
 兄さんは、咄嗟に死ぬ気の炎をコントロールして自分の防御力を上げたのだ。
 もちろん、リボーンさんは当然の事、私はヒントすら与えていない。兄さんは、それを本能的にやってのけたのだ。

「……見たか、友よ」
「あぁ」

 一瞬驚いた様に目を見開いた二人だったが、すぐにいつもの表情を取り戻して会話をするお父さんとリボーンさん。

 それほどまでに、兄さんの上達っぷりは異常なほど早かったのだ。



   +++ +++ +++



「うっ、ん……?」
『あ、目が覚めた? 兄さん』
「セツ……? これって……」
「やったな、第二段階クリアだぞ、ツナ」

 周りを一通り見回したのちに聞こえたクリア宣言に、思わずパッと表情を明るくする。
 クリアだ……!
 そして同時に、そう言えば、と一つの疑問が浮かぶ。

「さっき、父さんいなかった?」
「さぁな」
『……黙ってるんですか』

 小さくセツが何かを言った気がしたけど、上手く聞こえず聞き間違いだったのかと首を傾げる。
 でも可笑しいな、さっき父さんの声が聞こえた気がしたんだけど……。

 それも空耳だったのかと思い、自分の耳に異常でもあるのかと少し心配になる。

「……そう言えば! さっき代に段階クリアって言ったよな、リボーン!」
「あぁ、そうだぞ」
「流石でした、沢田殿。あの最後の一撃、まいりました」
「ってことは修行は終わ───」
「ってことで、修行第三段階に進むぞ」
「……うん、何か分かってたよ、うん……」
『あはは……』

 ほんとこれって一体、第何段階まであるのさ!

「第五までだぞ」
「人の心勝手に読むなよ?!」

 本当に、心が折れそうだ。







(でも今日は一度帰るぞ。腹減ったしな)
(だから何でお前の腹優先なんだよ?!)
(まだ小さいですからね、リボーンさん)
(どさくさにまぎれてからかってんじゃねぇぞ雪菜)
(えへへ)
(皆さん、仲がいいんですね)
(バジルさんも仲間ですよ?)
(! ……はい!)


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