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雪、溶ける。
頂上到達、来る!



 大きな音を立てて粉砕した崖の端が、セツと共に落ちて来る。
 オレは慌てて、リボーンの方へと向き帰った。


「ど、どうしようリボーン! このままじゃセツが……!」
「大丈夫だ、落ち着いて見ておけ」
「見ておけって……!!」


 リボーンのこの発言は、オレには理不尽に聞こえた。
 見ておけ、つまりは「助けるな」と言う事だ。
 まさかリボーンは、落ちて来るセツを助けようともしない気なのだろうか。
 セツの小さな体が、徐々に地面に近づいて来る。オレは起こりうる最悪の事態を恐怖し、ぎゅっときつく目を瞑った。


『……あー、勿体ない……』
「……え?」


 ふいに、声が間近で聞こえた。
 驚きのあまりカッと目を見開いたオレの視界に移ったのは、間違いなく先ほど瓦礫と一緒に落下していたセツだった。
 あまりにも予想外れだった現状に、オレの口からは「あ、ぅえ……? あぇ……?」と形をなしていない言葉が投下される。もはや意味不明だ。
 いや、実際意味不明だった。
 さっきまで落ちて来てたのに、どうして今オレの目の前に立っているのか、理解が出来なかった。……少なくともオレの頭では。


「『雪姫』の名は伊達じゃねぇって事だな。流石のオレも、ちょっと驚いたぞ」
『そんな……リボーンさんの方がよっぽど凄い事ぐらい、私でも知ってますよ?』
「……まあな」


 特徴的なニヒルな笑みを浮かべながら、リボーンは謙遜している素振りをひとかけらも見せず賛成する。
 いや、ちょっとは遠慮しろよ。


 っていうか、そう言う話じゃなかったよ!


「え、セツ、え?! ちょっと待って、大丈夫なの?!」
『え? あ、うん、大丈夫だよ?』


 少し困った様な、だがしかし当然の様に返事をするセツに文字通り目が飛び出すほど驚く。
 だって、あれだよ?! 目の前にあるこの二十メートルはくだらない様な絶壁だよ?!
 あまりの非現実に、重度の目眩を感じた。




 嘘でしょ……?



「てな訳で雪菜の見本も終わってやり方も分かった所で、行ってこいツナ」
『いや意味分かんないよ?! 何が行ってこいなの、オレ今なにひとつ分かってないからね?!』
「チッ……うぜぇから早く行け、ダメツナ」


 折角さっき上がって服が乾き始めたばかりなのに、ゲシッとリボーンに鳩尾を蹴られ再び川に落ちる。またしてもビチョビチョだ。
 セツが心配そうに飛び込んで来て、俺を助けてくれた。川の水が肺に入り込んでむせ返る。



 あぁ、もう本当に……











 ────嘘だよねぇ……?



・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・




「登る登る登る登る登るぅ!!」
『兄さん頑張って、後もうちょっとだよ!』
「随分登れる様になって来たじゃねぇか」


 さすがのリボーンさんも、腕を組んで感心した様に呟く。やっぱり、兄さんの成長は尋常ではないのだろう。
 私とリボーンさんは今崖の天辺で兄さんの到着を今か今かと待ち構えている。兄さんが到着するまで後約七メートル。
 今回こそは……! と、手を握りしめてどうか行けます様にと祈る。

 だけど……。




 シュウゥゥ〜……


「……あれ?」
『あッ……!』


 後少しと言う所で、死ぬ気モードが解けてしまった。
 いけない、今誰も下にいない……!

 慌てて飛び降りようとした私を、寸での所で「まぁ待て」とリボーンさんが制止した。
「お、落ちる〜!」と慌てだした兄さんを見て、私は息を呑んだ。
 ダメだ、間に合わない……!


「ひぃい〜!!」
『……!!』


 予想だにしていなかった光景に息を呑む。

 だって、兄さんが登って来ていたのだから。
 死ぬ気になってもいないのに。
 ただただ、落ちる事への恐怖心で必死に新たな石を探しては掴み、探しては掴み、ついに。


『凄い……! やったね、兄さん!』
「はぁあ〜……」


 感嘆の息を呑んで、溜め息をついて放心している兄さんの方へ駆け寄る。
 正直に凄かった。まさか、死ぬ気モードが解けてなお、登りきるなんて。

 さすが。やっぱりお兄ちゃんには、


『敵わないなぁ〜……』
「へ? セツ、何か言った?」
『……ううん、なんでもないよ』


 私の独り言は、リボーンさんの耳にだけ届いて空に消えて行った。







(おめでとう、兄さん!)
(あ、うん、えへへ……)
(何うかれてやがる、第二段階に進むぞ)
(え嘘、第二段階とか聞いてないぞ?!)
(言ってないからな)
(いや言えよ……)


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あきゅろす。
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