世界はやはり、残酷で。
和解。
「アスファル・リーフ!」
大きな声出呪文を唱え、アラジンは杖を対象物───降って来た少年へと向けた。
瞬間、場違いな突風が巻き起こり一瞬にして落ちて来ていた少年をその渦の中へと包み込み、すぐにその落下をせき止めた。
周りの民衆から一気に歓声が巻き起こる。
巻き起こった風はゆっくりとその勢いを削ぎ、ふわりと呆然としているその少年を地面に下ろした。
「大丈夫かい、お兄さん!」
アラジンは杖を下ろし、慌ててその少年の方へと駆け寄った。一緒にいたティトスとスフィントスも一緒について来る。
いつの間にか周りにいた観衆はそれぞれもとしていた事を再開しており、野次馬の規模は大幅に減っていた。
落ちて来た少年は未だに呆然と座り込んでおり、長い髪の大半が地面について埃まみれになっていると言うのに全く見向きもしていない。
目を見開いて、目の前の中空を遠い目でで見つめている。心ここに在らずと言う感じだ。
「……お兄さん?」
「……!」
二度目のアラジンの問いかけでようやく気が付いた様にビクリと反応する少年。まだ固まったまま数回瞬きをしてから、ゆっくりとこちらへと首を傾けた。
そして少し驚いた様にしながらも「あ……どうも」と小さく頭を下げながらアラジンを見上げて来た。
その少年の顔を始めてきちんと見た事で、アラジンは初めてその事に気付いた。
この人、綺麗なお顔をしてるなぁ……。
思わず見とれていると、その人物が不思議そうに首を傾げて来たので慌ててその考えを振り払う様にわざとらしい咳払いを一つ。
「それで、大丈夫? どうして空から降って来たんだい?」
「ああ……うん、大丈夫。何で降って来たのかは……知らない」
「? 知らないって言うのは?」
「気付いたら、そこにいた。僕にも良く分からないよ」
「どこから来たんだ?」
「う〜ん……ここじゃない何処か、みたいな?」
三人の質問攻めをもろともせず、いたずら好きな子供の様に微笑み、肩をすくめて小さく首を傾げる少年。
「「「……」」」
「? ……どうした?」
このお兄さん、お姉さんじゃないのかな……。
一瞬だが、そんな疑いが生まれた。
そして同時に、また別の疑問も浮かび上がった。
「お兄さんは、魔法使いなのかい?」
「まほう……あぁ、そう言えばジンさんそんな事言ってたなぁ……」
「え?」
「ああいや、何でも無い。魔法使い、ねえ……うん、そうかも」
一人でぶつぶつと何かを言ったかと思うと、突然納得する少年。
やっぱりそうか、とアラジンは一安心した。
この町での人種差別の酷さは彼も良く知っているし、もしこの突如落ちて来た少年が魔法使いでなかったのなら、あるいは人々───主に魔法使いから酷い扱いを受けるかも知れない。
そう言う人は、出来る限り少なくなってほしい。
「う〜ん、ティトスくん。こういう場合、入国審査受けないと行けないのかな?」
「僕にも良く分からないが……たぶん、受けておいた方が良いと思うな」
「そうだな、オレもそう思うぜ」
「やっぱりそうだよね……よし、じゃあちょっとついて来てくれるかな、───えっと……」
「? ……ああ」
言葉を区切って困った様に頬を書くアラジンを見て、少年は一瞬不思議そうにするも状況を理解して小さく頷く。
「僕は……僕はエスト。呼び捨てで構わないよ、たぶん」
「たぶんって! 僕はアラジンさ」
少年エストの不確定な発言に思わず笑いながらも、すぐに自分の名も名乗るアラジン。
それに続く様に、アラジンの両隣にいた二人も自己紹介を始める。
「僕はティトスさ。分からない事が有るなら僕に聞けば良い!」
「オレ様はスフィントス。いいか、間違えるなよ?」
随分と個性のにじみ出た名乗りにアラジンは苦笑しながら、未だ座り込んでいたエストが立ち上がるのに手を貸した。
よく見ると、彼が身にまとっていた衣服は少し不思議な物だった。
奴隷のそれと形状は似ていて一枚の布をただ人間の体の形に縫い合わせただけの様に見えるが、その布生地は随分綺麗で、高級品のようだ。
アラジンは思わず自身の親友を連想した。
アリババくんと始めてあった時、彼が着てた布生地に似てるなあ……。
今の状況と関係ない事を脳内で考えながら「じゃあついて来て」と歩き出す。
後ろから聞こえてくる足音でエストがついて来ている事が分かった。
そして、次の瞬間。
バタッ!!
「あだッ!」
「ええッ?!」「はぁ?!」「何だ?!」
唐突に後ろから聞こえた盛大な音とエストの声に、前を歩いていた魔法学院の生徒三人は弾かれた様に振り向いた。
そこにいたのは、「いたたた……」と恐らく打ったのであろう額をさすりながら起き上がるエストの姿があった。
「大丈夫かい、エストくん?!」
「あぁうん、平気だよ。ちょっと髪に躓いたもんで」
まいったまいった、と笑う。
額は赤く腫れていて、結構痛そうだ。
確かに、エストの髪はやけに長い。さっき歩いていたときだって、毛先が地面について引きずっていたぐらいだ。
これは、随分と歩きにくそうだ。
(僕の髪ゴム、使うかい?)
(うん、使わせてもらうよ。……あれ、上手く結べない……)
(ったく、自分の髪も結べねぇのかよ……)
(あっはは……)
(どれ、貸してみろ。僕なら結べる)
(ああ、頼むよ)
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