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世界はやはり、残酷で。
邂逅。
 ふと、にゃあぁ、と猫が鳴いた。

「! 聞いたかアラジン! にゃあと鳴いたぞ、にゃあと!」
「あ、うん。猫だからね」
「お前本当ガキだな。猫一匹ぐらいどこにでもいるだろ?」

 オブラートに包まれた突っ込みが放たれる。
 魔法学院の生徒の証である魔導服に身を包んだ三人の姿は、一般人の集うこの国道で限りなく目立つ存在となっていた。現に先ほどまで「魔導士様、魔導士様」とちやほやされまくっていたのだ。

「ったく、外に出るの初めてなのかよ、お前は」
「うむ、よく考えると初めてに近いな」
「そうなのかい?」

 驚いた様に目を見開いて青髪の少年───アラジンは問う。
 何せ、年下の彼だって数えきれないほどの回数外に出ていると言うのに隣にいる金髪の少年───ティトスが今回の外出は初めてに近いと言うのだ。
「流石は良いとこのボンボンだぜ」と少しの哀れみを込めて銀、寧ろ白い髪色をした青年───スフィントスが口にする。

 瞬間、周りの一般市民の間にざわめきが巻き起こった。

 何事かと、三人は瞬時に猫から視線を外し戦闘態勢を取る。この町で、園から来る脅威と戦えるのは『魔法使い』と言う『種族』だけなのだ。もし敵襲だとしたら、彼らが周りの市民を守らねばならない。

「あれを見ろ!」
「やだ、子供じゃない?!」
「人間が! 空から!!」
「誰か! 受け止められる物を持った奴は!」
「無いわよそんな都合のいい物!」

 一人の男性が空を指差した事から始まった叫び声の応酬、阿鼻叫喚。事態は全くと言っていいほど収まりそうにない。
 アラジン達は、慌てて顔を上に向けた。

 ───そこには、藍色の髪を金色にはためかせ落下する、少年の姿があった。



   +++ +++ +++



「嘘だろ?! え?! 嘘じゃないの?! 嘘ぉ?!!」

 聞いてるこっちが悲惨に思えて来る悲鳴を次々と発しながら落下するエスト。
 目の端に浮かんだ涙が次々と宙を舞い、『さっきまでいた場所』に取り残されて行く。

 風の中ではためく衣服と髪は明らかに自分の物ではない。『こちらの世界』に来た弾みで変わってしまいでもしたのだろうか。
 服はそう呼ぶと言うにはあまりにも無防備な物で、あえて色々な説明を省略して表すのなら『一切れの布』だ。汚れている訳でもなく新品の様にほぼ純白なそれは、申し訳程度に体中に巻き付けてあり、まるで何処かの民族衣装の様に思えた。
 髪も、元々は漆黒で短髪だった筈なのに、物凄い長さを持って風の中ではためく今のそれは夜空色で、所々に金色の斑点がついた、まるで夜空の様な色合いだった。

 本当に大声を出して泣きわめきたかった。
 この状況を分析した限り、これは転成とでも言うべき物だろう。つまり、人生をやり直せると言う事だ。
 それなのにまた死のうと言う考えは、浮かぶ方が可笑しい。
 なのに……、

「なのに、ここから始まるってどう考えても可笑しいだろぉお?!!」

 と、泣き言を吐き出す。
 もう幾重もの雲を突き抜け、それすらも無くなりただただ青い空を突っ切って落ちているだけの状態だ。もう何時地面に激突しても可笑しくない。
 いよいよ覚悟を決めて瞼を閉じた時。

 シャラン、

 ……え?

 聞き覚えの無い音に閉じていた瞼を瞬時に開き、音が聞こえた自分の左手の方に視線を投げかける。
 そこには、見覚えの無い銀色の腕輪が太陽の光を反射して輝いていた。細い鉄の輪がいくつも複雑に折り重なり、その一つでは小さな鳥の様なチャームがカラン、と音を立てた。

 ───こんなブレス、持ってたっけ?

 そんな事を思っていると、不意に今までのそれとは比にならない風圧が体を襲った。







(どこで買ったんだろう、これ)
(ひ、人が……!)
(どうにかしないと!)
(新たなマギの、誕生だ)


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あきゅろす。
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