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世界はやはり、残酷で。
召還。
「……ん?」

 違和感を感じて、少年は閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
 来ないのだ。いつまで経っても、『衝撃』が。
 それに加えて、何だか不思議な感覚に襲われていた。
 なんだか、自分の周りの時間が止まっている様な。まるで、宙に浮いてしまっている様な。
 そんな、感覚。

 飛び込んで来た景色は、誠に予想外な物だった。
 先ほどまでいた場所───それは、薄暗い森の一角に位置した自殺名所の崖。

 そして今いる場所───一言で言うと、良く分からない場所だった。
 光り輝く上下左右。それは決して一色ではなく、同じ色ではあるが全てが違う濃さを持っておりその色全てが不規則な模様を作り出している上に、何だかその色がうごめいている様にも思える。下に地面は無く、上に空は無い。周りに壁など無ければ、木々も無い。一言で表すなら、『無』の空間だった。

「ここ、どこだろ……」

 素直な感想を述べる。
 実際訳が分からなかった。

 オレさっき自殺しようとしてたよね? 森の中にいたよね?
 ……ほんとにここどこ?!

 良い知れぬ不安と恐怖に襲われた。
 今から死のうとしていたと言うのに、全く情けない話である。
 だが、それほどまでにこの空間は非現実甚だしい。

 ───……わが……じよ……。

「───は?」

 おいおいちょっと待て、何か聞こえたぞ今?!

 ここだけの話なのだが、少年は幽霊の類が昔から大変に苦手だった。
 そして今回も。
 謎の異空間。どこからともなく聞こえて来る声。
 自然と人々は、ホラーと言うジャンルを連想するだろう。

 そしてその苦手な『ホラー』に遭遇した今、少年の思考回路はショート寸前まで追い込まれていた。

 待って、待って?!
 オレ、自殺しようとしたんだよな。
 それで、気付いたらここにいて、今なんて変な声聞こえて来てるよ?
 ……やめましょうよ何だよこれ。

「───我が主よ」
「おぅ?!」

 青。
 一瞬にして目の前に出現したのは、青い肌の色をした『巨人』だった。周りにはピンクの煙も舞っている。
 先ほどまでは確かに何も無い、ただ無の空間だった筈の所だ。

 巨人の容姿は人間で言う二十代後半と言う所だろうか。なかなかのイケ面だ。顔に色々な化粧施され、髪の毛は天然パーマのショートカット。服を来ているのは下半身だけで、体中の至る所にピアスやタトゥーがある。どうやら男性のようだった。

 少年は、自分が声の主を知って随分と落ち着いている事に気が付いた。

「あの……貴方は?」
「我は、貴方様をこの世界へ誘い、導く者」
「僕を……?」

 この世界って……。

 色々ビックリした。

 いや、中二なのは分かったけどさ。
 何、結局誰なのこの人。

 少々失礼な事を考えながら、少年は再び巨人を一望する。
 成る程、確かに巨漢だ。自分なら、たとえ五人縦に並んだとしても及ばないだろう。
 と、これまた少々ズレた事を考える少年。
 前言撤回しよう、やはり少年はあまり落ち着いていないようだ。

「我はジン。そして貴方様は、今までとは違う得意な『マギ』だ」
「ジン……マギ……?」

 聞き慣れない単語をそのままおうむ返しにしてしまう。
 頭の中の辞典を必死に探り返すが、ジンやマギなどと言う単語は全くと言っていいほど見当たらない。

 ジン? じん、じん……人の名前としてならありえそうだけどなぁ。成る程この人、ジンって名前なのか。
 そうだとしてもマギは? マギ、まぎ、magi……人文字加えて『magic』、魔法? オレが魔法ってどう言う事?

 考えれば考えるほどこんがらがってきた。
 もうやめようと思い、考え込んでいるうちにいつの間にか下がっていた目線を再びその『ジン』へと戻す。

「で……その『ジン』さんが僕に、何のようですか?」
「我は貴方様に、この世界の案内をする為にある」
「案内……? ガイド、って事ですか?」
「然様だ」
「んー、なるほど……?」

 首をひねって以前良く分からないが何とか納得する。

「で、僕は何故ここに来ちゃったんですか? 僕、じさ───っ……」
「貴方様の事情は把握している」
「!」

 危うく自分の過去話を暴露してしまう所だった。
 だが、どうやら心配は無用だったらしい。

「貴方様は、この世界の『穴』を埋めるために、我らが父ソロモン王が召還したこの世に有らざる『六人目の』マギだ」
「六人? その『マギ』って人は、六人いるんですか」
「ああ。貴方様を入れて、六人だ」

 結構多いじゃないか。

「……では、貴方様にこの世界について説明しても良いだろうか?」
「え? あ、はい」

 承諾した事により、その青い巨人の説明が始まった。
 その話の要点だけを抽出してまとめると、こう言う事らしい───。

 この世界は少年が今まで暮らしていた世界とは違う場所で、『カガク』と言う理念以上に『マホウ』と言う概念が発達しているらしい。
 少年が今まで常識と認識していた知識は全くと言っていいほど通用はしないし、身にまとう衣服も違う。ここまでくれば、食文化も違うのだろう。

「そちらの世界の『古代アラブ』とやらを想像してもらうと良い」

 どんなんだよ。

 鋭い突っ込みをかましてやる。ただし、心の中でだが。
 ジンが一通り話を終えると、少年は先ほどから思い浮かんでいた疑問を口にした。

「それで、この世界の概要は分かったんですけど……その、『マギ』って一体なんなんですか?」
「マギ。それは───創世の魔法使い」
「創世の……?」

 ジンの口から出た突拍子もない言葉に眉を顰める。

 創世って、世界を創るって綴りの『そうせい』かよ。
 オレはそんなに偉いもんになった覚えないぞ。

 ジンはいまいち納得していない少年の様子を見て、ふっ、と柔らかく微笑んだ。

「そちらの世界は、こちらとは違いすぎる。出来るだけ、そちらの事は口にしない方が良い」
「……分かった」
「貴方様の名は、この世界では異形だ。ソロモン王からの提案だが、『エスト』と名乗ると良い」
「エスト、か……」

 何だかしっくり来る名だと、少年は思った。
 自分の与えられた名でもない、突然提示された名前。
 それなのに、何だか自分に似合う名だと思えた。

 名を告げた後、ジンはふぅ、と小さく息を吐く。

「……では、そろそろ貴方様をこの世界へと送るとしよう」
「……ねぇ、ジンさん」
「何だ?」
「また……また、会えるの? 僕らは……また、会えるんですか?」

 何の根拠も無く、少年は問いかけた。
 ただ、もう一度話しがしたかったたから。
 ただ、もう少し仲良くなりたかったから。
 ただ───

「……ああ、会えるさ」



 ───友達になりたかったから。

 柔らかい笑みのまま答えたジンは、そのままゆっくりと目を閉じた。
 その瞬間、周りが一瞬にしてまばゆい光に包まれる。
 あまりの眩しさに、少年はきつく目を瞑り、利き手を光を防ぐ様に顔の前まで持ち上げた。

 ───貴方様が計り知れぬ危難に遭遇する時……。

 周りの空間から声が聞こえる。

 ───我は、いつでも馳せ参じよう。

 ジンは一瞬にして一粒の光となり、少年が持ち上げていた腕の手首へ一瞬にして飛来する。その光の粒が一瞬きらりと強くきらめいたかと思うと、次の瞬間にはその光は消え、少年の手首に残ったのは一つの銀色のブレスレットだった。

 刹那。

 少年は今までいた空間では一切感じていなかった風圧を感じた。
 何事かと思い、きつく閉じていた瞼をぱっと開く。
 広がった景色は先ほどとは違い、上には空が有り、下には地があった。
 が、少年は自分が実際いた『位置』に激しい違和感を覚えた。

 ───遥か上空、雲を突き抜け落下する。

 耳に鳴り響く音はもはや『ひゅっ』ではなく、『ぼぉおおっ』と、まるで何かが燃えている様なそれだった。

 ───嘘だろ?

 顔を引きつらせ、自問自答。
 左手首にある小さな鳥の様なチャームのついたブレスレットが、シャラン、と音を立てる。



「嘘だろぉおおおっ?!!」

 悲惨な悲鳴を残し、少年───エストは空を切り裂いて落ちて行った。







(え?! 嘘、死ぬよ! いや、死のうとしてたけども!!)
(我はいつでも、貴方様のそばに)
(見ろアラジン、猫だぞ!)
(う、うん、そうだね、ティトスくん)
(ったく、たかが猫でんなにはしゃぐなよ……)


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あきゅろす。
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