夢か幻か
1
僕は重たい足取りのまま、教室の前まで歩いてきた。
人の気配がする教室。
僕はドアを開けた。
『雫!ずいぶん長かったね??』
信ちゃんは満面の笑みで僕に話し掛けた。
『あ…うんちょっとね……』
後ろめたい気持ちでいっぱいな僕は、信ちゃんを直視出来なかった。
『……?なんかあったの?』
『えっ…?何もないよ!転入の話しと、生徒会の雑用やるように言われたくらいだよ。』
僕は今までしたことのない全力の作り笑いで答えた。
『……ならいいんだけど?』
信ちゃんは少し疑問を持っていそうだったが、深く聞かずに流してくれた。
『でも、いきなり転入初日に生徒会に勧誘とは、雫はすごいなぁ〜』
『え?そうかな?面倒くさそうだし、微妙だよ。』
『なかなか生徒会になれないんだよ〜?しかも、生徒会になるとファンもたくさん出来るし…』
『…ファン?』
『ある意味生徒会役員の人達は高嶺の花だからね〜』
『そうなんだ。でも、僕は雑用係みたいなもんだからさ…』
『いーや、雫は可愛いからきっと人気者になるよ。うちのクラスの神谷も生徒会だから、かなり人気あるんだぜ?』
『……そうなんだ。』
この時僕はこれ以上面倒くさい事に巻き込まれないことを、ただただ祈るだけだった。
神谷恵…なんとか上手く付き合えたのならどんなに楽だろうな…
『やっぱり、頭いい奴はちがうなぁ〜』
『そんなこと言わないでよ…信ちゃんだって、学年上位なんだから、変わらないよ。』
『…確かに!』
そういって信ちゃんは笑った。
僕も信ちゃんにつられて笑った。
なんか信ちゃんといると、昔に戻った様な、暖かい空気になり、僕は落ち着く事ができる。
……僕はまだ信ちゃんが、好きなのだろう…
友達としてなのか…
男としてなのか…
どちらか今はわからないけど、今の僕には必要な存在である事は間違いなかった。
この暖かい空気を作り出してくれる、信ちゃん。
やっぱり僕の過去を知ったらこの時間は無くなってしまうよね……
学長に従うのは嫌だけど、信ちゃんがいなくなるのはもっと嫌だ。
お願いします神様。
僕は嫌なことも我慢します。
だから僕から、信ちゃんが離れないようにしてください。
笑いながら僕はこの時が続く事を祈っていた。
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