03
「……ありがとう。離れてていいよ」
クライサが言うと、傍らにいた無線ゴーレムがパタパタと飛んでいった。
それを見送った後、三度空を見上げる。
……そう、三度目なのだ。
氷の階段を元気に駆け上がったはいいが、一度目も二度目も、スーマンの元に辿り着く前にアクマの攻撃に妨害されて、地上に戻らざるをえなくなってしまった。
そのための神田なのだが、彼にサポートを任せるにも、スーマンを狙ったアクマの攻撃は凄まじすぎた。
つい先ほど咎落ちがまたエネルギー波を放ったため、周囲のアクマの数がある程度減り、今度こそスーマンの元へ行けそうなのだが……
「『咎落ちになったら助からない』のに、本気でスーマンを助けようってのか?」
神田が言う。
クライサの無線ゴーレムを通じて、リナリー達の会話を聞いたがゆえの問いだ。
コムイは、咎落ちになったスーマンを助ける方法はない、と言った。
ならば彼を助けようと足掻くのは、時間と体力の無駄に過ぎない。
しかし、クライサは迷いなく頷いた。
「言ったでしょ、助けるって。スーマンが裏切り者だろうが、助ける方法が無かろうが、前言撤回はないよ。──それに」
ニヤリ。
自信に満ちた笑みに、神田は目を見張る。
「あたし、負けず嫌いだから」
出来もしない事に手を伸ばして死に物狂いでもがくほど、真っ直ぐでも、愚かでもない。
引き際は心得ているつもりだし、そういった眼には自信がある方だ。
駄目だと判断すれば、諦める。
……だけど。
「出来そうだと思ったら、やってみせなきゃ気が済まない」
手が届きそうだと判断したから、限界まで手を伸ばしてやろうと思った。
もはやリナリーのためだけじゃない。
これはクライサ自身のプライドに関わる問題なのだ。
それに。
呟いて、右腕に目を落とす。
腕を包む赤い鋼鉄、クライサを選んだ氷のイノセンス。
「氷釧は、あたしに力を貸してくれる」
「……?」
「スーマンを殺そうという『イノセンス』を止めようとしてるあたしに、『イノセンス』が力を貸してくれるんだよ。後押ししてくれてるみたいじゃない?」
「…まぁ…確かに…」
『イノセンス』というものがスーマンを殺そうとしているなら、彼を助けようというクライサや神田のイノセンスがそれを拒む事だって考えられる。
なのにイノセンスはそうしなかった。
そこに意味はないのかもしれないが、クライサには、それが望みに思えたのだ。
「っていうか、あたしが本気を出せば何でも出来ーる」
「…てめぇのその自信は、一体どこから来るんだ…」
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