04
「スーマン!」
三度目の正直、とでも言うように、クライサと神田は今度こそスーマンの元に辿り着く事が出来た。
彼の身体が沈んだ穴に踏み込まぬよう、その周囲に生えた牙か骨のようなものを足場にして、男の名を呼ぶ。
だが、スーマンは全く反応を見せない。
ならば引きずり出すまで、とクライサと頷き合った神田がスーマンの肩を掴んだ。
それをグイと引いた途端、目視出来るほどの激しい電撃がスーマンの身体を走り、沈黙していた彼がけたたましく叫び声を上げ、大量の血を吐き出す。
「…そこにいるのは、だれだ…」
漸く声を発した彼に安堵する間もなく、血に塗れた口がさらに動く。
「呪われろ…呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ…神も使徒も何もかも呪われてしまえ…!!」
すべて壊れてしまえ。
憎悪に満ちた声が紡ぐ呪詛。
神田は目を見開くが、その隣のクライサは一切表情を変えず──
「黙らっしゃい!!」
「ごふぅ!!」
「(頭突き!!)」
まだまだ呪詛を吐く気だったらしいスーマンに音速の頭突きを繰り出し、先の電撃に劣らぬ苦痛に呻く彼に、わざわざ助けに来てやったというのに呪われろとほざくとはどういう事だむしろテメェが呪われろクズいやしかし助けに来たんだからほどほどにな云々と説教を垂れているクライサを、神田は初めて尊敬した。
ここまでマイペースに生きられる人間が存在するとは夢にも思わなかった。
いや、もうツッコミを入れるなんてそんな概念すら頭に浮かびやしない。
とはいえ、そんなクライサにシリアスを粉々に破壊されても、スーマンがこちらの意図に沿ってくれる様子はない。
無理矢理身体を引っ張り出そうとすれば、やめろ、死んでしまえと叫び声を上げて拒み、噛みついてこようとするのだ。
アクマ達の攻撃も再開され、スーマン自身に残された時間も確実になくなってきている、これ以上時間をかけてはいられない。
神田。
クライサが名を呼んだ。
「ちょっとばかりムチャするから、アンタはここ離れてていいよ」
「あ?」
怪訝そうに眉を顰めた彼に、笑みを浮かべて頷く。
このままスーマンの身体を引きずり出そうとしても埒があかない。
といって外側から──アクマの攻撃で殺されてしまったら、リナリーとの約束を果たせない。
……と、なれば。
「内側からブッ壊す」
語尾にハートマークが付くぐらいにこやかに笑って言ったクライサの額に、青筋が浮かんでいるのを神田は確かに見た。
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