リクエスト
神威(しんい)#1(隊長たちと模擬戦+冬獅郎隊長前)
「強ぇ奴が、居るそうじゃねぇか」
隊首会で珍しく発言した剣八は、愉(たの)しそうに笑う。
「何のことじゃ?」
「とぼけんなよ、じじぃ。一番隊に居るんだろ?」
一番隊。
それを聞いた全ての者が、誰についてのことなのかを理解した。
神童。
そんな仰々しい呼び名に相応しい者なのか、皆の気になるところでもある。
なんせ彼の姿を見た者は、まだ居ないのだ。
「雛森くんが、その神童と幼なじみらしいんだ」
藍染の言葉に、市丸が反応した。
「ひゃあ。さすがやね。鬼道の達人さんの幼なじみは、神童かいな」
「一度、見てみたいものだねぇ」
編み笠に手をかけながら、京楽は総隊長を見遣った。
「ふむ。見極めてみたいか?」
挑戦的な声音に、剣八は口の端を吊り上げた。
「自信満々じゃねぇか」
総隊長は、少し笑う。
「儂(わし)の、秘蔵っ子じゃからのぅ」
「総隊長。任務だって、聞いたんすけど。……何の騒ぎっすか?」
任務じゃついて来い、と言われて訪れた一番隊修練場には、幾人かの隊長の姿。
冬獅郎は特に動揺した様子もなく、平然と問う。
こういうところが、気に入ったのだ。
そう思い、総隊長は笑みを零す。
驚いたのは、隊長たちの方だった。
思ったよりも、幼い出(い)で立ち。
銀髪と翡翠を持つ、端正な容貌。
そして、隊長たちの輪の中におりながらも、一歩も引かないその威厳。
誰からともなく、笑顔を漏らす。
本当に、すごい者が入ったのでは、と。
「集まりが、隊首会より良いのぅ」
不満げに呟く総隊長に、苦笑する隊長たち。
そして、次の発言は、多少なりとも冬獅郎を驚かせた。
「こやつらと、戦ってみぃ」
「……総隊長。何の嫌がらせっすか?」
そう言いたいのも、山々だろう。
京楽が、それはないんじゃないの、と口を開こうとした時。
修練場の屋根が、ぶち破られた。
荒々しい霊圧に、物を考えないその行動。
そういえば剣八は馬鹿だった、と後悔しながら、破られた屋根の下に居るはずの、冬獅郎を捜そうとする。
砂煙の中から歓喜に満ちた声が、聴こえるまでは。
「やるじゃねぇかよ。そう来なきゃなぁっ!」
「……非常識」
その落ち着いた声音は、剣八よりも大人の響きを持っていた。
視界が、開ける。
背から素早く抜いた刀で、剣八の刀を受け止める、小柄な姿。
けれど、その表情には、余裕が見えた。
ははは、と京楽は笑う。
あれだけ総隊長が、自慢げに振る舞っていたのだ。
弱い、わけがない。
それにしても、と思う。
「とんだ神童が、居たもんだ」
彼の様子を見て、普通の者とは違う何かを持っていることは、とうに分かった。
総隊長を見ると、満足げに笑っている。
「久しぶりに、まともな相手と戦えるんじゃないかのぅ?」
総隊長を見上げた冬獅郎は、にっと笑った。
神威(しんい)#1
(総隊長との手合わせ、飽きてきたとこだったんすよ)
(生意気じゃのぅ)
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