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リクエスト
出口のない日々#1(稀羅さんへ)※オリジナル色あり/嫌われ注意
去って行く背中を見ながら舌打ちを漏らす。

「知るかよ。そんな女」

名前も知らねぇ親戚どもの言葉に出てくる女の名前。
俺がそいつに何したって言うんだ。
突然始まったこの暴力行為に関係しているのは確かか……。
口の中に溜まった血を吐き出す。
こんなことをされたのに、どこか冷めた自分がいた。



「まだ消えてないのかよ、冬獅郎くん」

見下すかのような声音。
最近俺に絡んでくる奴らだ。
振り向けば、肩を掴まれそのまま壁に押し付けられた。

「何だよお前ら。何がしたいんだよ!」

「分からないのか!?少し力が強いからって図に乗るなよ!」

……意味分からねぇ。
睨みつけてみれば右頬を強く殴られた。

「その目がいらつくんだよ!お前ら押さえてろ」

脇に立っていた二人組が俺の両脇を固める。
むやみに力は使いたくない。
いつからか感じていたその思いが抵抗する間(ま)を奪う。

「優美(ゆみ)ちゃんに謝れ!」

鳩尾(みぞおち)に食い込んだ拳。
思わず込み上げた吐き気に口許を押さえた。

「っ!」

倒れ込んだ俺は蹴り飛ばされる。

「消えるなら今のうちだぞ」

捨て台詞を残してそいつらは去って行った。

「……冬獅郎!?」

誰かの慌てたような叫びが、遠ざかる意識の中で響く。
ふと馴染んだ霊圧を感じた。



傷口に冷たい何かが触れる。
正直その冷たさは、傷に酷くしみた。

「いって!」

飛び起きれば固いものに激突する。

「「〜〜っ!!」」

声にならない反応を二人分感じた。
頭をさすりながら、涙の滲む目をそっと開ける。
長くしなやかな髪が、さらりと流れた。

「姫歌……?」

綺麗なその髪に、思い浮かべたのは親戚である同い年の少女。
すかさず返ってきた台詞に、予想通りの人物であったことを確信した。

「痛いじゃないの!急に起き上がらないで!」

額をさすりながら、姫歌が文句を垂れる。

「悪い。それよりどうして……」

「はぁ?どうしたはこっちの台詞よ!こんな傷だらけで倒れて……」

段々と元気を無くす姫歌の姿に、俺はうなだれる。

「嫌な思いさせたな。何でもねぇからもう忘れろ」

「何よそれ!……ちょっとくらい頼ってくれたって良いでしょ」

巻き込みたくはない。
自分自身も状況が掴めていないこの渦中に……。

「……優美って奴、知ってるか?」

それが精一杯だった。

「優美……あの女には気を付けて」

姫歌の声音が低くなる。

「そんなにやべぇ奴なのか?」

「やばいと言うか……いっつも取り巻き連れて、えばってる最低な女よ」

「……知らねぇ」

「……あなた、前もそんなこと言ってなかった?」

「は?」

「優美がなんたら言ってた奴が居たんだけど、そんな女いたか?って」

「……忘れた」

姫歌は眉間に皺を寄せる。

「あなたがそんな状態なのは、まさか優美のせいじゃないでしょうね?」

「……知るかよ。俺には関わんな」

痛む身体を動かして無理矢理立ち上がる。
頼れない、こいつには。

「冬獅郎!」

「治療さんきゅ」

部屋を出るときに聞こえた溜息は、何に対してなのか。

静かに扉を閉めた。



出口のない日々

(一人で、なんて許さないんだから)



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