短篇
二度目の出逢い(冬獅郎+一護)
夢を見た。
「強くなれ。一護」
そう言ったのは、誰だっただろう。
「おい」
俺は目を開ける。
目の前に立っていたのは、先日知り合ったばかりの十番隊隊長。
「あ。日番谷……」
「何してんだ?こんなとこで」
聞き覚えのあるようなこの声は何なんだろう?
そう思いながらも、身体を起こした。
「ここ……」
「十番隊隊舎の屋根の上だ。……昼寝か?」
「あー、悪ぃ。寝てた」
「構わんが、今日は風が強い。ずり落ちるぞ」
「そんな馬鹿なことするか!」
日番谷は何も返すことなく、哀れみの視線を向けてきた。
何だよ、その目は。
口を開こうとした時、強い風が通り抜ける。
「うわー。確かにすげぇ風だな」
「そう言っただろうが。……ちょっと待て、黒崎」
立ち上がろうとした俺の肩に置かれた手。
その手に少し力が入ったかと思うと、日番谷の身体がすぐ近くにあった。
低めの体温と、氷の気配。
不意に、懐かしさを感じた。
「なに?あれ」
幼い頃に見たそれは、今思えば虚だった。
でも、その時の俺はただの子供(ガキ)で、どうすることもできなくて、尻餅を着いたまま泣いていた。
振り下ろされる太く、大きな腕。
目を開けた時、目の前には誰かが立っていた。
虚の姿はどこにもなくて、白い世界が広がっている。
振り向く動作に翻る白。
見上げたその人の髪は、よく見ると銀髪で、翡翠色が印象的だった。
「大丈夫か?」
その優しい声音に、驚きで止まっていた涙が溢れ出す。
「なぜ泣く」
その人は困ったように呟き、しゃがんだ。
「名前は?」
「い、いちご」
「……苺?」
「ひとつのもの、まもる、っていみ、おかあさん、いってた」
嗚咽を漏らしながらのその言葉に、その人は笑って。
「そうか、一護か。……頑張ったな」
返された台詞は欲しかったものだった。
嬉しくて、ほっとして、その人の胸に飛び込んだ。
躊躇(ためら)うような腕が抱きしめ返してくれたことに、また涙が出た。
「強くなれ。一護」
身体が離れて、綺麗な翡翠が目に映る。
「泣きたくないなら、後悔したくないなら、護りたいなら。……その名の通り」
しばらく見つめ合った後、その人は立ち上がった。
「なまえは?」
出てきた疑問は本当に聞きたいことだったのか。
「日番谷冬獅郎だ」
「とうしろう。また、あえる?」
照れくさそうに笑ったその人は、光の中に消えて行った。
「お前が強くなったらな」
そんな言葉を残して。
それからお袋が死んだ日まで、虚を目にすることはなかったんだ。
なぜ、忘れていたのだろう。
堪え切れなくなって、日番谷の死覇装の裾を掴む。
「黒崎?どうした」
「何で、忘れてたんだろうな。……冬獅郎」
冬獅郎は俺の顔を見て、ばつの悪そうな顔をした。
「記憶置換、使ったはずなんだけどな」
離れた掌には、一枚の葉が載っていた。
「頭についてたぞ」
二度目の出逢い
(なぁ、冬獅郎。俺、少しは強くなった?)
(そうじゃなきゃ、会ってねぇよ)
[*前へ][次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!