[携帯モード] [URL送信]

時代劇ファンタジー
幻ノ、物語
きゃすと
・幻夢(げんむ)
・侍



〜序章〜

赤シルエットに雨の音。周りには骸骨が散らばっており、中心の岩に一人の男が座っている。

男「…つまらん…」

刀を一振りする。

男「…つまらんのぅ…私利私欲にかられた人間は。」

男、声を立てて笑う。雨の音が大きくなり、暗転。


〜一章〜

幻夢、道の真ん中で寝ている。

侍が歩いてくる。キョロキョロし歩く。草の音や鳴き声にいちいちビビる。
幻夢をふんずけ乗り越え進むが、首を傾げ振り向く

侍「…っぎゃあぁあああ!?!?」
幻夢「ぅおおおおお!?」
侍「なっななななな…ひ、ひひひととと…?!」
幻夢「あん?」
侍「あっ…相すまぬ!あまりに気配がなかったものだからつい…渡ってしまった」
幻夢「渡った…ぁあ!?腹に足跡!?」
侍「あぁあ相すまぬ!」
幻夢「あ?あぁ別に大丈夫…」
侍「なんと詫びをしたらいいか!は、そうだ。ほんの詫びとしてこの場で腹を…」
幻夢「だぁああ!大丈夫だっつってんだろ!道のど真ん中で寝てた俺も悪かったし…」
侍「そーか!そうだよな!じゃ、お互い様という事で。じゃっ」
幻夢「いやいや切り替え早いな!おいおい待て待て待て!」
侍「何だ、某は忙しいのだ。手短に頼む」
幻夢「つい先刻腹切るっつってた奴の台詞かよ…まぁいい。お前、この山に何しにきた?」
侍「何、とは?」
幻夢「この山は薬師山。薬の神が住むという言われのある山だ。しかし、観光するどころか道が曖昧で帰れるか分からず出られなくなる事が多々あることから迷道山とも呼ばれ誰も近寄らない。」
侍「ははは…何だ、地元の者だったのか?てっきり風来坊かと思っ…」
幻夢「さして有名でもないかつ、こんな辺鄙な所に訪れる人間の目的は大体…」
侍「不老不死の薬、であろう?」



幻夢「…どっから聞いたか知らねーが…引き返した方が身の為だぞ?」
侍「気遣いは有り難いが、某はどうしても取りに行かねばならぬ訳がある。」
幻夢「…ははっ…どうせ対して下らん事なんだろう?」
侍「それは、各々の受け取り方次第だ。…ではな。(歩き出す)」
幻夢「待てよ」
侍「何だ」
幻夢「俺もついて行こうか。」
侍「情けは無用だ」
幻夢「自ら自殺しに行くような奴に情けなんてやらないさ」
侍「死にに行くわけではない!某は薬を…!…」
幻夢「わぁってるって。しかし、不道山とも呼ばれるこの山を案内無しに行くなんて正に自殺行為だぜ?俺に任しときゃあ目当ての場所の近くまでは案内してやるよ。近くまではな。」
侍「貴殿…山伏か何かなのか?」
幻夢「ん〜…そのようなもんだ。」
侍「成る程…山伏なれば山道を熟知している筈か。ならば願い頼もうか。」
幻夢「はいはい了解っと。んで…(手を出す)」
侍「何だ」
幻夢「駄賃ぐらい、当然だろう?」
侍「それが目当てか…んで、いくらだ。」
幻夢「五両!」
侍「高すぎるわっ!たかだか道案内に某の大半の生活費をぼったくる気か貴様は!」
幻夢「これから死にに行くと思ったら、安い安い」
侍「…っ…ならば後払いだ。しっかりと目的地にたどり着いたなら、言われた金額を払ってやる。」
幻夢「後払いだと二倍の料金を戴く事になりますがよろしいでしょうか?」
侍「鬼か貴様は!」
幻夢「嫌なら道案内は出来ねぇぜ?」
侍「うぐぐぐ…」
幻夢「どうすんだ?」
侍「…仕方あるまい。ほら、五両だ。その代わり、しっかり道案内するのだぞ。」
幻夢「へいへいっとぉ!んじゃ、行きましょうか旦那!」
侍「全く調子のよい…」

鈴の音

侍「(ゾクッとする)!…何だ…?…」
幻夢「旦那?どうしたんだぁ?」
侍「ん、いや何でもない…さぁ急いで先に進むぞ!(急ぎ足ではける)」
幻夢「ち、ちょいと旦那!そんな先行くと迷子になっちまいますよー!(ふぅ、とため息をつき辺りを見渡す)…(軽く笑み、はける)」



暗転。


〜二章〜

歩いてくる。スタスタ歩く幻夢とゼエゼエ言いながら歩く侍。


侍「ま…待て…待てっ!」
幻夢「何だよ」
侍「す、少し休憩しないか?」
幻夢「まだ半分も歩いてねぇぞ。」
侍「し、しかし…こう山道が厳しいと…」
幻夢「全く…侍っつーのは体力がなくて困るねぇ…」
侍「何だとぉ!?」
幻夢「だって疲れてんだろぉ?いいぜぇここで休憩しても。」
侍「なっ…だ、大丈夫だ!これ位!」
幻夢「いやいや休んで結構!まだまだ険しい道は続くんだぜ?休んどかないと…ほら、下らない話でもしてさ。(座らせる)」
侍「あ、あぁ…」
幻夢「んじゃまずアンタの初恋の話から…」
侍「某の恋バナがお前にとっての下らん話なのか!?」
幻夢「不満か?じゃあ今日の朝飯とか…」
侍「何の為に!?」
幻夢「てか結婚してんのか?」
侍「関係ないだろう!…………ま……結婚は……してないが…」
幻夢「ふーん。あっそ。」
侍「聞いてきた割にそっけないな!!」
幻夢「あんたモテなそうだしな(笑)」
侍「っこの…」
幻夢「まぁお前の恋愛事情なんざどうでもいいんだが」
侍「お前から聞いてきたんだろうがっ」
幻夢「本当に聞きたいことがあるんだが、いいか?」
侍「今度こそ真面目な質問なんだろうな…」
幻夢「お前は何で、この山に来た?」





侍「…最初に言ったはずだが。不老不死の薬を…」
幻夢「そうじゃねぇよ。どうやって、此処に来たんだって聞いてんだ。」
侍「どうって…下総の山奥からだが?」
幻夢「ふぅん…」
侍「何だ?何か不具合でもあったか?」
幻夢「いや別に。じゃあ二つ目の質問。」
侍「うむ。」
幻夢「何で不老不死の薬が欲しい?」
侍「…そうやって…今までの奴からも聞いてきたのか?」
幻夢「今まで?」
侍「薬の噂はけして薄くはない。探しに来る奴は多いんじゃないのか?」
幻夢「…へぇ…アンタ、馬鹿じゃなかったんだ。」
侍「どういう風に見てたんだ。某を。」
幻夢「確かにアンタ以外にも薬を求める奴は沢山いたさ。その度に道案内はしてきた。」
侍「理由も聞いたんだろう?」
幻夢「あぁ聞いたさ。しかしどいつもこいつもつまらん理由ばっか。只長生きしたい、未来を見てみたい、死にたくない…」
侍「はは…だが薬の欲しがる者の訳は大体そんなもんじゃないのか?期待する方がおかしいだろう。」
幻夢「だけどよぉ…」
侍「じゃあお前は一体どういう答えを求めているんだ?」
幻夢「う〜ん…例えばだぜ?師匠の後を追った…とか。」
侍「(笑う)なんだそりゃ。薬と関係ないだろう?」
幻夢「…(目線を反らしたり、ソワソワする)」
侍「?何かあるなら言ってみろ。」
幻夢「…(ため息をつく)…昔々、ある国に師弟が住んでいた。」
侍「何だ、いきなり。」
幻夢「師匠は薬を研究する者であったが、ある日不老不死の薬の噂を聞き、弟子を残して旅に出てしまった。」
侍「弟子を…残して…」
幻夢「師匠の不在が長く続いたが、ある日弟子の元に一通の手紙が届く。」
侍「師匠からか。」
幻夢「手紙にはこう書いていた。『私は長い旅を得て遂に不老不死の薬を見つけた。しかしこれは、私が思っていたモノとは全く違う代物だった。お前は絶対に、私のようになっては駄目だ。私の後を…決して追ってはならん。』」
侍「全く…?どういうことだ?」
幻夢「不審に思った弟子は、言いつけを守らず師匠を探しに行く。そしてやっと師匠の元にたどり着いた…が」
侍「…が?」
幻夢「そこには昔の面影は無く、朱く染まったぼろ切れのような着物を身につけ、やつれた顔をした師匠が虚ろな目をして佇んでいた。」
侍「…不老不死には、なったのか…?」
幻夢「師匠は弟子に語りかけた。『言いつけを守らなかったな。此処に来てしまっては取る道は二つに一つ。死ぬか、私を殺して不老不死になるかだ。』」
侍「な、な、な、なんだと!?」
幻夢「更に師匠は続けた。『しかし、私はお前を殺すなど出来ない。お願いだ。私を殺し、不老不死の呪いを受け継いでくれないか。』」
侍「呪い…?…不老不死が、呪いだと?」
幻夢「弟子は迷ったが、悲痛な叫びをあげ懇願する師匠を見ていたたまれなくなり、了承して契約を交わし、薬を師匠から戴いた。呪いは師匠から弟子に渡り、呪いが解けた師匠は塵となり姿を消した。」
侍「塵に…」
幻夢「その後弟子は山に残り、決して呪いを他人に渡すことはなく、薬を求めに来る人を殺めて阻止しているそうだ。」




幻夢「…ていうのが、俺が聞いた昔話。」
侍「その話、誰から聞いたのだ?」
幻夢「さぁ…随分前に聞いたから忘れちまったよ。」
侍「解せぬな。不老不死が呪いだと?」
幻夢「そんなもんじゃねぇのか。だって死ねないんだぜ?」
侍「長生きして、損はないだろう。」
幻夢「死ねないって事は即ち人の道から外れるって事だ。人としては生きられない。寿命があるからこそ人間だろう?」
侍「何だ、まるで経験したかのような言いぐさだな。」
幻夢「…さぁ?そう聞こえるかい?」
侍「まぁ某には関係のないことだ。」
幻夢「…そうか。じゃ、先に進もうか。」
侍「待て、ここまでで結構だ。」
幻夢「何いってんだ。薬が欲しかったんじゃないのか?」
侍「あぁ、もういいのさ…薬は見つけたからな。」
幻夢「何…?」
侍「お前、その腰に下げているのは何だ。」
幻夢「こりゃただの水だよ。」
侍「ほぅ…じゃあ某に一口くれないか」
龍吟「それは断る」
侍「何故だ?」
幻夢「あんたにあげる義理はないね。」
侍「はは……そんなことを言って。……薬が入っているのだろう?」
幻夢「冗談!入ってるのは水だよ。」
侍「ならば何故、そんなに大事そうに持ち歩いている?」
幻夢「理由が必要かい?」
侍「いや結構。言わないならば、奪い取るまで(刀を抜く)」
幻夢「あらら物騒だねぇ。じゃ、さっきの質問に答えてくれたら中身を白状する。それでどうだ?」
侍「さっきの?」
幻夢「理由だよ。薬を求めている理由。」
侍「…あぁ、話そう。その代わり、その懐からだそうとしている小刀から手を離してからな。」
幻夢「ははっ…お見通しで。(手を離し、座る)」
侍「(座る)…某は、ある旗本の家に生まれた。代々徳川の家臣だった某の家は、そこそこ裕福で何不自由なかった。」
幻夢「そんなアンタが、何故薬を?」
侍「侍の使命はただ一つ、主君の命を執行する事。家康様は薬を作るのを趣味となされている方だ。」
幻夢「はん…殿様の命令で探しに来たと。」
侍「気は進まなかったが断ることは出来ない。そんな事をしたら使い物にならぬ奴だと暇を出されてしまう。」
幻夢「自分の命より、主君の命かい?」
侍「侍とは、そんなものだ。それに、命を完璧に遂行すればするほど地位は上がり豊かになれる。」
幻夢「そんなもん。命あってのものだろうが」
侍「命より名誉を欲す。それが武士の美学ぞ。」
幻夢「ふぅん…おかしなもんだな。」
侍「さ、話はもう済んだ。そのひょうたんを寄越してもらおうか。」
幻夢「それは無理だ」
侍「…嘘をつくのか?」
幻夢「違う。」
侍「では何…」
幻夢「さっき俺がした昔話、覚えてるか?」
侍「あ?あぁ…弟子が師匠の代わりに…」
幻夢「そう。あれには続きがあるんだ。」
侍「何だと?」
幻夢「弟子は薬を飲み、不老不死になった。不老不死となった者が二人以上になった場合、二人のうちの古株が消える事になるのさ。」
侍「だから師匠が消えたんだろ…しかし解せぬ。何故弟子は山に残った?」
幻夢「残った?…否、残らざるを得なかったのさ。」
侍「どういう…意味だ?」
幻夢「不老不死を得るにはある程度の重荷を負わなければいけねぇ。例えば、山から出ることが出来ないとか。」
侍「!!…だから、『呪い』か?」
幻夢「それもある。が、一番の呪いは『死ねない』だな。」
侍「は…何を言っている。『死なない』からこそ意味があるのであろう?」
幻夢「いいや、『死ねない』だ。長く生きることが、どれだけ辛いことか…お前には分かるまい。」
侍「…それは…まさか…」
幻夢「そうさ。俺こそお前の求める命を持つ人間…昔話に出てくる『弟子』って事だ。」
侍「…では……そのひょうたんを持って行けば、お前は死ぬ…?」
幻夢「そうさ。しかし、それは別に構わない。問題は、お前がこれを奪う気なれば俺はお前を殺さねばならねぇ。」
侍「…っしかし…」
幻夢「しかも、だ。例えお前がこの薬を得たとしてもお前は主君に呪いの薬を渡すことが出来るかな。」
侍「…それは…」
幻夢「…(笑う)なぁお侍さんよ。人間ってのは寿命が決まってるから毎日生きられんじゃないかな。」
侍「…」
幻夢「確かに生きてる間は死ぬのが怖いとは思うだろうさ。だからこの薬を求めちまう。しかし、長生きすればする程辛くなってくる。思い出はどんどん廃れ…ついに師匠の顔さえ、忘れちまった」
侍「…そうか…」
幻夢「だからよ。こんな思いを他の奴に味あわせたくないためにこの薬を守ってきた。しかし、もう人を殺すのは沢山なんだよ。頼む、この薬は…諦めてはくれねぇだろうか?」
侍「…分かった。某も主君を呪いに掛ける事は出来ぬ。それに…お前とも無駄に争いたくはないからな。」
幻夢「恩にきるぜ。」
侍「無用だ。こちらからも礼を言うぞ。さぞかし…辛かったろうに…」
幻夢「平気さ。それより、明日には山を下るだろう?今日は暗いし、寝て体力付けといた方がいいぜ。」
侍「あぁそうだな。じゃ、俺は向こうの木の下で寝る。」
幻夢「おう。じゃ、おやすみ。」
侍「…ああ…お休み…」

侍、はける。

暗転

〜第三章〜


幻夢、石に寄りかかり寝ている。そこに刀を持った侍が近づく

侍「……すまないな…龍吟………しかし、某には………これしか…………!」

刀を振り上げる。と、幻夢が目を開け、刀を素手で掴み、引っ張り取って投げ捨てる。

侍「っ…!…おま…っ」
幻夢「やはり…欲をかいた人は…容易には戻れぬか…」
侍「な…何を…」
幻夢「(侍の首を掴み、懐の短刀を抜く)今度こそ……上手く行く、と……信じてた…信じてたのに…なぁ…」


侍に突き刺す。と同時に照明が赤に変わる。
幻夢が手を離すと、侍は崩れるように倒れる。幻夢、深く深呼吸をし、侍に語りかける。

幻夢「……一つ…最後に教えてやるよ。何故この山に不老不死の言い伝えが広まったか。」
侍「っ…?」
幻夢「それはな、この場所…否、この山自体がまやかしものだからさ。この世に存在せぬモノ…だから、二度と戻れない。」
侍「…っな…らば…」
幻夢「広まる訳がない、と思うだろう?しかし現に広まっている。それもその筈、この山や俺はお前等人間の想像や空想によって生まれた産物だからさ。」
侍「なっ…にっ…!?」
幻夢「あぁ、自己紹介をしてなかったな…俺の名は幻夢。この山の本当の名前は夢魔山(むまざん)。お前らの勝手な夢幻の中から生まれた…いや、生まれさせられたモノだ!」
侍「…人間…の…所為…で…っ…」
幻夢「笑えるだろう?自ら想像したモノの中に入り、自ら空想した幻のモノを探す…それがいつの間にか自らを押しつぶしてしまうなんて。」
侍「…ま……ぼ……ろ………し…?」
幻夢「今までにこの幻想から抜け出せたモノはいない。誰一人…誰一人な…。あんたが、あんなことをしなければ、もしかしたら抜け出せたかもなのに、な…ははは…」
侍「……た……助け……」
幻夢「無駄だ。足掻いたって…泣き言を言おうがもう手遅れさ。…そう…もう…手遅れ……(刀を振り上げる)」
侍「頼む……幻……」
幻夢「あの世でも、元気でな。」

振り下ろした瞬間、暗転。暫くして、鈴の音。


幻夢「…またか…全く、人というのは幻想を抱くのが好きな生き物だ。なぁ?」

上に何か居るように語りかけるが、返答はない。


幻夢「勝手に生まれさせられたんだ…人間共は俺とお前を楽しませなきゃならねぇのは当然だと思うわないか?なぁ?(地面を撫でる)…さて、次の人間は…少しは楽しませてくれるかねぇ…(ひょうたんを持つ)この、ただの水を求めて、ね。はは、はははは…!…」


はけようとするが止まり、客席を見渡す。


幻夢、ニヤッと笑い暗転。






[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!