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小説

江戸の町は今日も賑やかだ。

しかし、久しぶりに江戸を訪れた龍吟は浮かない顔をしながら歩いている。その隣には、目を輝かせながら辺りを見渡している女の子の姿。そう、水返しの被害にあった村の、唯一の生き残りである。

女の子の名前は、お咲と言った。
「江戸の町って大きいのね!私、村から出たこと無かったから、こんな賑やかなところ初めて!」とキョロキョロしながら笑う。龍吟は一つため息をついて「そうかい。」と生返事をした。

お咲は泣きはしないがしょせんは子供。こうして手を繋がないと消えてしまいそうなくらいに興奮している。よって、龍吟の行動範囲はかなり絞られてしまっていた。

頭を押さえながら龍吟は仕事のしやすい場所を探す。


仕事、というのは芸のことだ。一定の場所で道行く人に芸を見せ、銭を貰うというものである。妖怪なので銭はいらないように思えるが、何せ長くこの世にいるため、着るモノや、町にいるときなれば寝場所の宿賃も必要である。それに幸い龍吟は、楽器や舞の才には長けていたため旅芸人というものは性にあっていた。

場所を見つけ、早速茣蓙を引いて扇子や笛を取り出す。
お咲が琵琶を手に取る。

「こらっ商売道具に触るんじゃないよ!」
と、言おうとしてその言葉を飲んだ。

――お咲が琵琶を引き始めたからだ。
「お前さん、楽器が出来たのかぃ?」
「この楽器は引けるの。村によく来ていた旅芸人に教えて貰った。」
にこにこと返事をする。そして、
「私もお仕事、手伝えないかな。」と言ってきた。
手伝いたいと言うなら、と思い、「あたしの舞に合わせて引くことは出来るかぃ?」と言うと、ぱっと顔を明るくし、頷いた。


まさか今後、龍吟の舞には欠かせない相棒になるとは、誰も思わなかった。龍吟にさえも…

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あきゅろす。
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